しあわせ食堂の異世界ご飯2
 お茶会が終わり、アリアは王城にある自室でぐったりうなだれる。
「アリア様、大丈夫ですか……?」
「大丈夫じゃない……大国は怖いわね」
 はああぁと大きくため息をついて、アリアはドレスを脱いでいく。それをシャルルに渡して、ジェーロに来てから購入した服へと着替える。
 淡い水色のチェック模様に、その上からシフォンを重ねた付け襟タイプの膝丈ワンピースだ。王女として王城で着用するには向かないが、街中で着ている分には買い物をしている令嬢だと言っても問題はないだろう。
(お茶会が終わったら、すぐにしあわせ食堂へ帰ろうと思ってたのに……)
 しかし予想以上に疲れてしまったことと、お茶会でのことや勝負の対策を先にシャルルと話し合ってしまいたいのだ。
 しあわせ食堂の自室で相談するよりも、この部屋の方が都合はいい。エマもカミルもいないため、周りに注意を図らず話し合いができる。
 シャルルは紅茶を用意して、アリアの座るソファの向かい側に腰かけた。
「でも、まさかリベルト陛下をかけて勝負するとは思いませんでした。幸いなのは、勝負内容がキノコ収穫ということでしょうか?」
 間違いなく、セレスティーナは収穫なんてしたことはないだろう。
 アリアはシャルルの言葉に頷いて、自分に勝機がありそうだと告げる。
「カミルに山を案内してもらおうと思うの。事前のリサーチが駄目というルールはないから、キノコの情報収集が勝敗を分けるはずよ」
「賛成です! それに、アリア様は料理が大好きですもん。きっと、料理の神様が味方してくれます!」
「シャルル……」
 精一杯励ましてくれるのを見て、アリアはじわりと目元に涙を浮かべる。
 勝手に婚姻をかけた勝負なんて受けないでくださいと、そう怒られてもおかしくはないのに。シャルルの優しさに、励まされる。
 大きく深呼吸をして、頭を切り替えよう。
「そうよね。私が勝てばいいんだもんね……!!」
「はいっ! アリア様が勝てば、晴れて婚姻です!!」
 当事者であるリベルトの許可は得ないまま、アリアとシャルルのふたりで盛り上がる。
「シャルルと話したら、気持ちが少し落ち着いたわ。しあわせ食堂に帰りましょ――あ、そうだ」
「どうしました?」
「念のため多めに作ったから、クレームブリュレが余ってるの」
「あ、そういえばふたつほど余ってますね」
 お茶会では始めから人数分しか用意していないため、セレスティーナに多く渡したりもしていない。どうしたものかと考え、アリアはせっかくならリントに食べてほしいと考える。
(でも、リベルト陛下は妃候補に会わないんだよね)
 それに、リントのときにしばらく忙しいということも聞いているので、クレームブリュレを持ってきたから食べてくれとも伝えにくい。
 うぅ~んと悩んでいると、シャルルは不思議そうにアリアを見る。
「どうしましたか?」
「うぅん。リベルト陛下に食べてもらえたらいいなって思ったんだけど……さすがに無理だよね」
「謁見の申し込みをしてきますか?」
「そこまではしなくていいの。忙しいのは、わかっているから」
 会いたいとは思うけれど、仕事の邪魔をしたいとは思わない。
 今日は大人しく帰った方がいいだろう。
「アリア様、それなら王城を少し散策してみてはどうですか?」
「え?」
「もしかしたら、リベルト陛下に会えるかもしれませんし!」
「ええぇっ!?」
 そうとなれば、結構あるのみ! と、シャルルはアリアの手をつかんで部屋を出る。彼女は何度か王城に来ているので、城内の地理はある程度把握しているのだ。
 とはいえ、シャルルもリベルトを見かけたことはないけれど……。
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