しあわせ食堂の異世界ご飯2
アリアに与えられた部屋を出て、廊下を進んでいくと絵画の並ぶ赤い絨毯の敷かれた広い廊下に出る。
何人もの使用人が行き来し、アリアを見かけると頭を下げていく。
「ねえ、シャルル。私、気づいちゃったの」
「どうしましたか? アリア様」
アリアは周囲を見回してから、そっとシャルルに耳打ちをする。
「働いている使用人の中に、しあわせ食堂へ来てくれているお客さんがいるわ。私だって、ばれないかしら……?」
「ああ、それなら大丈夫ですよ!」
「そう?」
王城の兵士やメイドの中には、アリアが言ったようにしあわせ食堂へ食事に来たことのある人もいる。
けれど、今のアリアは普段より綺麗なワンピースと、ハーフアップしたヘアスタイルにしているのだ。
誰も、しあわせ食堂のアリアだとは気づかないだろう。
「今日はお化粧もしていますし、じろじろ顔を見てくるような失礼な人もいないと思います」
それが王城の使用人であれば、なおさら。
だから問題はないと、シャルルは言う。
「……確かに、それもそうね」
まるで、正体がばれないかドキドキしている正義の味方のようだ。
アリアはくすりと笑って、再び歩き出す。足を向けた先にあるのは、中庭に面している渡り廊下だ。
そこは庭師に手入れされている花が咲き、今は秋ということもあってオレンジに色づいた木々も顔をのぞかせた。
「わ、綺麗! お茶会をした場所もそうだったけど、ジェーロの庭園は素敵ね」
「はい。エストレーラとは違う美しさがあるので、私も好きです」
アリアとシャルルは渡り廊下を歩いて、庭園の景色を堪能していく。
そしてその先には、別館があるのだが――入り口に兵士がふたり立っていて、立ち入りの制限されている場所だということがわかる。
アリアは隣にいるシャルルと目を合わせて、この先へは行けそうにないから引き返すために踵を返すが――その瞬間、アリアの視界にわずかに銀色が映り込んだ。
(リント?)
そこは兵士が立つ扉の先ではなく、建物の二階にある角部屋の窓だ。
よく見知ったプラチナブロンドが見えて、アリアはリベルトの執務室だろうと当たりをつける。
それならば、侵入者対策で入り口に兵士がいるのも頷ける。
(会うのは無理かと思ってたけど、偶然発見しちゃった……)
それがなんだか嬉しい。
じっと窓に視線を向けるアリアを見て、シャルルも二階の様子に気づく。
「アリア様、どうしますか? 兵士に、陛下にお会いできるか確認しましょうか?」
「…………」
シャルルの言葉に、アリアはどうしようかとほんの少しだけ思案する。
けれど、すぐに首を横に振った。
今日のお茶会で、セレスティーナたちの誰もが、リベルトと謁見をしてはいないと言っていた。それなのに、リントと知り合ったからと言って――ここでアリアだけがこっそり訪問するのはよくないだろう。
「このまま帰りましょう。セレスティーナ様たちと勝負の約束もしてしまったし、勝ってから堂々と会いに行けばいいのよ」
「それもそうですね、ぎゃふんと言わせてから会いに行きましょう!」
アリアの言葉に頷いて、シャルルも強気だ。勝負をするのは自分だけれど……と、アリアはそんなシャルルに苦笑する。
「それじゃあ、お庭も見たし帰りましょう」
「はい、アリア様」
(クレームブリュレを食べてほしかったけど……また今度、作ればいいよね)
少し名残を惜しみながら、王城を後にした。
何人もの使用人が行き来し、アリアを見かけると頭を下げていく。
「ねえ、シャルル。私、気づいちゃったの」
「どうしましたか? アリア様」
アリアは周囲を見回してから、そっとシャルルに耳打ちをする。
「働いている使用人の中に、しあわせ食堂へ来てくれているお客さんがいるわ。私だって、ばれないかしら……?」
「ああ、それなら大丈夫ですよ!」
「そう?」
王城の兵士やメイドの中には、アリアが言ったようにしあわせ食堂へ食事に来たことのある人もいる。
けれど、今のアリアは普段より綺麗なワンピースと、ハーフアップしたヘアスタイルにしているのだ。
誰も、しあわせ食堂のアリアだとは気づかないだろう。
「今日はお化粧もしていますし、じろじろ顔を見てくるような失礼な人もいないと思います」
それが王城の使用人であれば、なおさら。
だから問題はないと、シャルルは言う。
「……確かに、それもそうね」
まるで、正体がばれないかドキドキしている正義の味方のようだ。
アリアはくすりと笑って、再び歩き出す。足を向けた先にあるのは、中庭に面している渡り廊下だ。
そこは庭師に手入れされている花が咲き、今は秋ということもあってオレンジに色づいた木々も顔をのぞかせた。
「わ、綺麗! お茶会をした場所もそうだったけど、ジェーロの庭園は素敵ね」
「はい。エストレーラとは違う美しさがあるので、私も好きです」
アリアとシャルルは渡り廊下を歩いて、庭園の景色を堪能していく。
そしてその先には、別館があるのだが――入り口に兵士がふたり立っていて、立ち入りの制限されている場所だということがわかる。
アリアは隣にいるシャルルと目を合わせて、この先へは行けそうにないから引き返すために踵を返すが――その瞬間、アリアの視界にわずかに銀色が映り込んだ。
(リント?)
そこは兵士が立つ扉の先ではなく、建物の二階にある角部屋の窓だ。
よく見知ったプラチナブロンドが見えて、アリアはリベルトの執務室だろうと当たりをつける。
それならば、侵入者対策で入り口に兵士がいるのも頷ける。
(会うのは無理かと思ってたけど、偶然発見しちゃった……)
それがなんだか嬉しい。
じっと窓に視線を向けるアリアを見て、シャルルも二階の様子に気づく。
「アリア様、どうしますか? 兵士に、陛下にお会いできるか確認しましょうか?」
「…………」
シャルルの言葉に、アリアはどうしようかとほんの少しだけ思案する。
けれど、すぐに首を横に振った。
今日のお茶会で、セレスティーナたちの誰もが、リベルトと謁見をしてはいないと言っていた。それなのに、リントと知り合ったからと言って――ここでアリアだけがこっそり訪問するのはよくないだろう。
「このまま帰りましょう。セレスティーナ様たちと勝負の約束もしてしまったし、勝ってから堂々と会いに行けばいいのよ」
「それもそうですね、ぎゃふんと言わせてから会いに行きましょう!」
アリアの言葉に頷いて、シャルルも強気だ。勝負をするのは自分だけれど……と、アリアはそんなシャルルに苦笑する。
「それじゃあ、お庭も見たし帰りましょう」
「はい、アリア様」
(クレームブリュレを食べてほしかったけど……また今度、作ればいいよね)
少し名残を惜しみながら、王城を後にした。