しあわせ食堂の異世界ご飯2
「ええ。できまして?」
「…………」
にこにこ笑っているローズマリーは、正直に言って何を考えているのかよくわからない。ポーカーフェイスではなく、笑顔の仮面をつけていると言えばいいだろうか。
下手に無表情な相手よりも、やりにくい。
けれど、料理で勝負を仕掛けられてはなおさらノーと返事なんてできない。いったい何を作ればローズマリーは喜ぶのだろうと思案しつつも、アリアは頷いた。
「わかりました。ローズマリー様にお気に召していただける料理をお作りさせていただきます」
「セレスティーナを虜にするようなお菓子を作るのですもの。きっと、私も満足させていただけると信じていますわ」
了承してもらえたからか、ローズマリーはさらに機嫌をよくする。
「ああ、でも……」
「……?」
「わたくしの口に合わないような、酷いものは作らないでくださいね? そんなつまらないことをされたら、わたくし何をするかわからないもの」
「……っ」
ひどく楽しそうに笑うローズマリーを見て、アリアは背筋に嫌な汗が浮かぶ。こういう、何を考えているかわからない人が一番怖い。
アリアは気持ちを落ち着けるように深呼吸をして、料理人の顔で微笑む。
「今から作りますので、少々お待ちくださいませ」
「ええ、もちろんよ。楽しみだわ」
ローズマリーは厨房へ戻るアリアを見送り、しあわせ食堂の店内を見回す。こじんまりしているけれど、清潔にしてあり好感はもてる。
けれど何より、濃厚なカレーの香りがローズマリーの食欲を掻き立てるのだ。
いったいアリアはどんな料理を出してくれるのだろうか。
「ふふ、こんなにわくわくするのはいつぶりかしら」
普段はルーズベルの第三王女としての立場を求められ、何ひとつ好きなことはできない。所詮は王女なんて、政略結婚の駒に使われるだけだろう。
だから今回も、ジェーロの皇帝の恐ろしい噂は知っていたけれど、ずっと祖国にいるよりはましかもしれないと思い妃候補に志願したのだ。
まあ、それで暇が解消されたのかと言われたらそんなことはないのだけれど。セレスティーナがいるとはいえ、やはり退屈なことは多かった。
どうせならば、本気でリベルトに惚れているセレスティーナの味方をしてみたら楽しいかもしれないと思い、応援した。
けれど、リベルトはローズマリーを含め誰にも謁見を許可しなかったのだ。
「国で女を集めたのに、陛下はなんて冷たいのかしら」
まったく相手にされていないセレスティーナを可哀相だとは思ったけれど、リベルトに婚姻の意思がないのであればローズマリーにもどうすることはできない。
「わたくしは恋というものがよくわからないけれど、あのセレスティーナが泣くほどだもの。恋とはきっと、ひどく辛いものなのね」
そのうち政略結婚をすると思っているローズマリーからしたら、不思議なだけだ。
今まで誰かを好きだと思ったことはないし、結婚をしたいとか、ずっと一緒にいたいと思った男性もいない。
ローズマリーは時折、自分には愛に関する感情が欠落しているのではないかと思う。
「そういえば、アリア様もリベルト陛下を慕っていると言っていたわね」
王城でもあまり見かけず、ほかの妃候補への接触がなかったので、ローズマリーはアリアに婚姻の意思はあまりないのかと思っていた。
ジェーロの機嫌を損ねないために、とりあえず送られてきた姫だと判断したのだ。
それが蓋を開けてみれば、とても変わった姫だった。
「お姫様が街の食堂の料理人、なんて。そんなオモシロソウなこと、わたくしがほおっておくわけないじゃない。……でも、それがばれてしまったら、アリア様はきっととても困るわね」
きっと、もうここで働くことはできないだろう。最悪、エストレーラに強制送還させられる可能性だってある。
ああ、早く料理が出てこないかしら。
ローズマリーは頬に手をついて、じっと厨房の方を見つめる。
お茶会に持ってきたお土産のように、甘くて美味しいデザートが出てくるのだろうか。それとも、この食堂で人気のあるカレーのような料理が出てくるのだろうか。
それを考えているだけでも、楽しい。
気づくと、店内にはローズマリー以外はお客さんがいなくなっていた。貴族と一緒に食事をして不敬罪になっては堪らないと、誰も入店してこないのだ。
貴族が帰るまで外で並んでいると、外では入店待ちの列だけが伸びていっている。
それから少しして、アリアが料理を手にして食堂から姿を見せた。
「お待たせしました、ローズマリー様」
「わたくしのためにいったいどんな料理を作って――まあ、それはなあに?」
料理を目にしたローズマリーは、声をあげて驚く。今まで見たことのない赤色の、まるでマグマのような料理だ。
アリアはにこりと微笑み、テーブルの上に料理を置く。
本日のメニュー、『体の芯まで燃える麻婆豆腐』の完成だ。
「…………」
にこにこ笑っているローズマリーは、正直に言って何を考えているのかよくわからない。ポーカーフェイスではなく、笑顔の仮面をつけていると言えばいいだろうか。
下手に無表情な相手よりも、やりにくい。
けれど、料理で勝負を仕掛けられてはなおさらノーと返事なんてできない。いったい何を作ればローズマリーは喜ぶのだろうと思案しつつも、アリアは頷いた。
「わかりました。ローズマリー様にお気に召していただける料理をお作りさせていただきます」
「セレスティーナを虜にするようなお菓子を作るのですもの。きっと、私も満足させていただけると信じていますわ」
了承してもらえたからか、ローズマリーはさらに機嫌をよくする。
「ああ、でも……」
「……?」
「わたくしの口に合わないような、酷いものは作らないでくださいね? そんなつまらないことをされたら、わたくし何をするかわからないもの」
「……っ」
ひどく楽しそうに笑うローズマリーを見て、アリアは背筋に嫌な汗が浮かぶ。こういう、何を考えているかわからない人が一番怖い。
アリアは気持ちを落ち着けるように深呼吸をして、料理人の顔で微笑む。
「今から作りますので、少々お待ちくださいませ」
「ええ、もちろんよ。楽しみだわ」
ローズマリーは厨房へ戻るアリアを見送り、しあわせ食堂の店内を見回す。こじんまりしているけれど、清潔にしてあり好感はもてる。
けれど何より、濃厚なカレーの香りがローズマリーの食欲を掻き立てるのだ。
いったいアリアはどんな料理を出してくれるのだろうか。
「ふふ、こんなにわくわくするのはいつぶりかしら」
普段はルーズベルの第三王女としての立場を求められ、何ひとつ好きなことはできない。所詮は王女なんて、政略結婚の駒に使われるだけだろう。
だから今回も、ジェーロの皇帝の恐ろしい噂は知っていたけれど、ずっと祖国にいるよりはましかもしれないと思い妃候補に志願したのだ。
まあ、それで暇が解消されたのかと言われたらそんなことはないのだけれど。セレスティーナがいるとはいえ、やはり退屈なことは多かった。
どうせならば、本気でリベルトに惚れているセレスティーナの味方をしてみたら楽しいかもしれないと思い、応援した。
けれど、リベルトはローズマリーを含め誰にも謁見を許可しなかったのだ。
「国で女を集めたのに、陛下はなんて冷たいのかしら」
まったく相手にされていないセレスティーナを可哀相だとは思ったけれど、リベルトに婚姻の意思がないのであればローズマリーにもどうすることはできない。
「わたくしは恋というものがよくわからないけれど、あのセレスティーナが泣くほどだもの。恋とはきっと、ひどく辛いものなのね」
そのうち政略結婚をすると思っているローズマリーからしたら、不思議なだけだ。
今まで誰かを好きだと思ったことはないし、結婚をしたいとか、ずっと一緒にいたいと思った男性もいない。
ローズマリーは時折、自分には愛に関する感情が欠落しているのではないかと思う。
「そういえば、アリア様もリベルト陛下を慕っていると言っていたわね」
王城でもあまり見かけず、ほかの妃候補への接触がなかったので、ローズマリーはアリアに婚姻の意思はあまりないのかと思っていた。
ジェーロの機嫌を損ねないために、とりあえず送られてきた姫だと判断したのだ。
それが蓋を開けてみれば、とても変わった姫だった。
「お姫様が街の食堂の料理人、なんて。そんなオモシロソウなこと、わたくしがほおっておくわけないじゃない。……でも、それがばれてしまったら、アリア様はきっととても困るわね」
きっと、もうここで働くことはできないだろう。最悪、エストレーラに強制送還させられる可能性だってある。
ああ、早く料理が出てこないかしら。
ローズマリーは頬に手をついて、じっと厨房の方を見つめる。
お茶会に持ってきたお土産のように、甘くて美味しいデザートが出てくるのだろうか。それとも、この食堂で人気のあるカレーのような料理が出てくるのだろうか。
それを考えているだけでも、楽しい。
気づくと、店内にはローズマリー以外はお客さんがいなくなっていた。貴族と一緒に食事をして不敬罪になっては堪らないと、誰も入店してこないのだ。
貴族が帰るまで外で並んでいると、外では入店待ちの列だけが伸びていっている。
それから少しして、アリアが料理を手にして食堂から姿を見せた。
「お待たせしました、ローズマリー様」
「わたくしのためにいったいどんな料理を作って――まあ、それはなあに?」
料理を目にしたローズマリーは、声をあげて驚く。今まで見たことのない赤色の、まるでマグマのような料理だ。
アリアはにこりと微笑み、テーブルの上に料理を置く。
本日のメニュー、『体の芯まで燃える麻婆豆腐』の完成だ。