しあわせ食堂の異世界ご飯2
「これは、麻婆豆腐という辛みのある料理です。ご飯の上に載せて、一緒に食べてみてください」
「いただくわ」
 アリアの簡単な説明を聞いて、ローズマリーはさっそく料理に手をつける。
 スプーンで麻婆豆腐をすくいあげ、まずは香りを楽しむ。
 それはひゅっと息を呑みたくなるような、そんな体の奥まで絡みつくような……今までかいだことのないものだった。
「不思議な香り。鼻の奥が、つんとするわ」
 麻婆豆腐を言われた通りご飯にかけて、ローズマリーはためらうことなくそれを口に含んだ。
「――んっ!」
 最初に感じたのは、熱さだ。
 ひき肉と豆腐に絡みつくとろみが、それを逃がさないように封じ込めているのだろう。はふっと新鮮な空気を吸い込んでから、ローズマリーは麻婆豆腐を噛みしめる。
 じわりと広がっていくのは、辛みだろうか。
 音を鳴らして飲み込むと、それがのどに絡みつく。けれどそれが心地よく感じてしまい、ローズマリーはふたくち、みくちと麻婆豆腐を口へ含む。
 いつの間にか、しっとりとした汗が額に浮かんでいた。
 自分の体が熱を持ったことに気づいたローズマリーは、声を出して笑う。
「ふふ、ふ……まさかわたくしに、こんな料理を出すなんて」
「お気に召していただけましたか?」
「ええ、とっても! だってわたくしにこんな辛い料理を出したのは、アリア様が初めてだもの。ただの小国の姫だと思っていたのに……あなたは本物だと、認めないといけないわね」
 ローズマリーの言葉を聞いて、アリアはほっと胸を撫でおろす。
 けれどローズマリーには、まだ気になることがある。
「どうしてわたくしに辛い料理を出したのかしら?」
「ああ、それは……ローズマリー様は辛い物がお好きだと思ったからです」
「なぜかしら」
 アリアの答えを聞き、ローズマリーは笑みを深くする。
 彼女は、普段から可愛らしいピンク系統のドレスを身に着けていることが多い。そのため、周囲は甘いものや果物が好きだと思い込んでいる。
 実際、ローズマリーがお茶会などの手土産に持っていくのもフルーツ類など、甘みのあるものが多い。
 間違っても、アリアが出したような辛みの強い料理を出すことはないのだ。
 アリアは正直に告げていいものかと迷いつつも、思ったことを口にする。
「最初に違和感を覚えたのは……お茶会のときの、ローズマリー様が持ってきていたお土産のフルーツです」
「あら、お土産がフルーツでも問題はないわよ? 甘みが高くて、とても美味しいと思うのだけれど……」
 その理由を聞かせてと、ローズマリーは先を促す。
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