しあわせ食堂の異世界ご飯2
「もちろん、いけないわけではありません。わたくしが気になったのは、そのときのセレスティーナ様の言葉ですから」
 お茶会のとき、フルーツの盛り合わせを見たセレスティーナは『パン生地で林檎を包んで焼いたお菓子が大好き』と言っていた。
 前後の会話を思い出すと、ローズマリーは元々そのことを知っていたという風に受け取ることができる。
 お茶会主催者が好きだと知っているのであれば、調理したものをお土産にすればよかったのでは……? と、アリアは思ったのだ。
 それに、ローズマリーは出されていたお菓子も最低限の量しか口にしていない。
「なのでわたくしは、ローズマリーは甘いものが得意ではないと思ったのです」
 実際、アリアが持っていったクレームブリュレも、美味しいと言ってくれたが進みが早いわけではなかった。
「わたくしが甘いものを嫌いだと思って、辛いものにしたのね」
「もちろん、それだけが理由ではありません」
「あら、ほかにも何かあって?」
 ぜひアリアの推理を聞かせてほしいと、ローズマリーは微笑む。
「しあわせ食堂での、ローズマリー様の様子です」
「わたくしの?」
「そうです。厨房から少しだけ見ていたのですが、ローズマリー様はカレーとストロガノフが気になっているようでしたから」
 なので、どちらかといえば辛めのものが好きなのかもしれないと考えたのだ。
 メニューに甘めと記載していた卵焼きには、あまり関心がないようだったのも甘いものが嫌いだろうという判断材料にさせてもらった。
 以上が、アリアの推測だ。
 ローズマリーは拍手をして、「その通りだわ」とアリアを褒める。
「ちなみに、麻婆豆腐にしたのはちょうど材料があったからです。普段使わない食材は、お店にストックがないので……」
「まあ、そんな理由で?」
 苦笑するアリアに、ローズマリーは目を瞬かせる。
「ふふっ、すごぉい。今ある材料からわたくしが好きな料理をちゃちゃっとつくてしまうなんて、そんな芸当は王城の料理長にも不可能だわ」
 ローズマリーは、とびきりの賛辞をアリアに贈る。
「完敗だわ、十分よ。とっても満足だもの、ありがとう」
「ありがとうございます」
 ローズマリーの返答に、アリアは肩の力が抜ける。
(よかったぁ~!)
 これで、アリアがしあわせ食堂で働いていることを内緒にしていてもらえる。
 安心しきっているアリアを見て、ローズマリーは「そうだわ」と席を立ちあがってアリアの横へと行く。
 そして耳元に唇を寄せて、小さな声であることを囁いた。
「え……?」
「とっても美味しかったから、そのお礼に教えてあげたの」
 そう言って、ローズマリーはぱちんと指を鳴らす。すると、すぐに彼女の騎士たちが店内へ迎えに入って来た。食事をしている間は、ずっと外で待機させていたようだ。
 騎士の一人がアリアの元までやってきて、子袋を差し出されたのでそれを受け取る。どうやら、中にはお金が入っているらしく、硬貨の擦れる音がした。
 中を見なくても、料理代金が高すぎるということがわかる。
「ローズマリー様、あの……」
「受け取っておきなさい。それとも、アリア様はわたくしからの報酬は受け取れないというのかしら?」
「……いえ、ありがとうございます」
 アリアは大人しく受け取ることにして、礼を述べる。
 ここで意固地に断って、大国との仲が険悪になるのだけは避けなくてはいけない。先ほど耳打ちされた情報といい、彼女は敵に回してはいけない部類の人間だろう。
「それじゃあ、わたくしは失礼させていただくわね。また美味しい料理を振る舞ってちょうだい」
「ええ、ぜひ」
 心の中で、そのときはぜひ営業時間外で……とつけ足しておく。
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