しあわせ食堂の異世界ご飯2
 リベルトに謁見を申し込むのは、三回目だ。
 一回目は、初めてジェーロに来たとき。
 二回目は、ついこの間。体調がよくないと聞いて、心配で様子を見に来たとき。
 ちなみにすべて、リベルトとの謁見は叶っていない。
 今回は勢い余って来てしまったけれど、謁見が許可されない可能性は非常に高い。

 王城にある自室で、アリアは身支度をしながらドキドキしている。
 シャルルが髪をアップスタイルにし、前髪をあげ普段よりも大人っぽく仕上がった。ほんのり薄化粧をすれば、王女アリアの完成だ。
「バッチリ、綺麗ですアリア様!」
「ありがとう、シャルル。でも、シャルルも侍女の腕が上がったわね」
「そうですか?」
 エストレーラを出てすぐのころは、髪の毛を結ってもらったのになぜかぼさぼさになる……なんて事案も発生していたのだ。
 けれど今はまったくそんなことはなくて、乱れひとつないし、走っても結んだ髪がほどけるようなこともない。
 カミルの料理の腕といい、自分の周りの成長が著しい。
「アリア様に褒めてもらえるのは嬉しいです。このままスーパー侍女を目指します!」
「それは無敵そうね」
 シャルルの言葉に笑って、アリアの緊張がほどけていく。
 同時に、部屋にノックの音が響いた。せっかく落ち着いたのに、また体がこわばってしまった。
 おそらく、謁見の許可に関する連絡だろう。
「確認してきます」
 シャルルがアリアの下を離れて、ドアを開けて対応する。
 呼びに来た人物を横目で見てみると、上品なロングスカートの女官だった。使用人のメイドではないことに驚き、同時に謁見の許可が下りたのだと気づく。
 彼女たち女官は、王族や貴族の世話をするために王城にいる貴族の女性だ。メイドたちよりも、一つ上の役職になっている。
 すぐにシャルルが戻ってきて、アリアを見て頷いた。
 初めて、公式な場でリベルトに会うことができる。アリアはごくりと喉を鳴らし、緊張した面持ちで立ちあがった。


 案内されたのは、漆黒の扉に銀の縁取りがされている豪華な部屋だった。
 以前、アリアとシャルルが入り口までやってきた、離れにあるリベルトの執務室にあたる。
 女官が扉をノックし、入室の許可が下りるとすぐに扉を開いて頭を下げた。
「ここから先に入室が許可されているのは、アリア様のみです」
 告げられた言葉を聞き、アリアとシャルルは顔を見合わせて頷く。シャルルは一歩後ろに下がり、アリアだけが部屋の中へと入る。

 オフホワイトの壁に、黒を基調とした家具。
 艶のある漆黒の執務机は、リベルトの厳しい雰囲気にとても似合う。壁には本棚が備え付けられていて、資料が並んでいる。
 部屋の中央にはテーブルとソファがあり、話し合いをすることもできるようになっているようだ。
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