しあわせ食堂の異世界ご飯2
アリアを見たリベルトは執務机から立ち上がって、ソファへ座るように促す。
女官が紅茶を用意するのを待ってから、リベルトも向かいに腰をかけて口を開いた。
「アリアが来るなんて、何かあったか?」
「……リベルト陛下とお話がしたくて、参りました」
「話?」
リベルトの眉が、ぴくりと反応する。
話の先を促されて、アリアは少しずつ口を開く。
「わたくしは、あの夜から……ずっと考えてきました」
「アリア……」
どうするのがいいか。
自分は力になれるのか。
リベルトにとって、どういう存在なのか。
「もしかしたら、リベルト陛下が死んでしまうのではないかと考えたら、とても恐ろしかったです」
今はこうして生きてくれているけれど、次はどうなるかわからない。
アリアはそっと目を閉じて、小さく深呼吸をする。
「確かに、わたくしも、エストレーラも、リベルト陛下を助けられるほどの力はないかもしれません。ですが、倒れそうになったリベルト陛下を支えることならできると思いました。私は、あなたの隣に立ちたい……っ!」
「…………」
真剣な瞳のアリアを見て、リベルトはどうしたものかと思案する。
この間の事件のことで、アリアにはひどく心配をかけさせてしまった。
リベルトがもっと上手く立ち回れていたらよかったのだけれど、失敗してしまったのだ。
すぐにでも、リベルトがアリアを婚約者にすると告げればアリアの望みはあっさりと叶う。しかしそれは、今までになかった危険が伴うのだ。
今度はアリアに毒が盛られてしまうかもしれない。そうしたら、命が助かるなんていう保証はどこにもないのだ。
リベルトはそれをよしとはしない。
大切な人だからこそ、ちゃんと守りたいのに。
隣に立ってもらえたならば、どんなに心強いだろうか――。
アリアは反応を示さないリベルトに不安を覚え、膝の上に載せている手をきゅっと握る。
「……私がリベルトであると正体を明かしたときに言ったことを、覆すつもりはない」
「リベルト陛下……」
「今はまだ、そのときではない」
だから待っていてくれと、優しい低い声がアリアに届く。
もちろんそれを一度了承しているし、アリアも我儘を言っているのは自分だという自覚はある。
「でも、わたくしはリベルト陛下におひとりでいてほしくはないのです。苦しくて辛いとき、側にいられないのは情けないです」
「駄目だ」
けれど必死のアリアの思いは虚しく、一蹴されてしまう。
アリアがなんて言おうと、リベルトは譲る気はない。
アリアにもそれはわかっているが、この間のように知らない間にリベルトが毒を盛られて倒れていたらと考えると……待っているだけなんて無理だ。
「私の近くは危険が多い。アリアを嫌って言っているわけではないと、理解してくれ」
「それは……」
理解はしているが、心がついていかない。
「今日は許可したが、今後は謁見もしない。もし何かあれば、フォンクナー大臣に伝えてくれたらいい」
「……っ!!」
リベルトとして会うことはしないと言われて、胸が痛む。
おそらく何を言っても、話は平行線のままだろう。
(私のためだっていうことは、わかってるのに……っ)
ひどく冷たく見えるリベルトの態度だけれど、実はそれが愛だということはアリアが一番よくわかっている。
絶対的に守られているというのが、わかる。
だからこそ、アリアも支えたいと思ったのだ。
(せめて支えられるくらい、私が強かったらよかった)
アリアは深呼吸をして、リベルトを見る。
「……本日は失礼させていただきますね。お忙しいのに、わたくしにお時間をいただきありがとうございました」
「アリア」
ゆっくり立ち上がり、帰ろうとしたアリアの手をリベルトが掴む。口では関わるなと言うくせに、行動が真逆だ。
アリアは小さく笑って、リベルトを見る。
「掴まなくても、わたくしはどこへも行きませんよ?」
「わかっている。……私が、触れたかっただけだ」
「!」
これは言い訳なのか、本心なのか。
(その言い方、ずるいです)
「落ち着いたら、食事に行く」
「はい」
こちらからの接触は駄目だけれど、リベルトがリントとして会いに来る分には問題ないらしい。
アリアは頷いて、リベルトの手に触れる。
何度もアリアのことを助けてくれて、抱きしめてくれた力強い腕だ。
「今日は帰ります。何かあったら、いつでもしあわせ食堂へ来てくださいね」
「ああ。必ず行く」
勇気を出して、アリアからリントの胸へと抱き着いた。
着やせするので普段は気づかないけれど、こうして触れると、たくましい体で必要以上にドキドキしてしまうのだ。
リベルトに抱きしめ返される前に、アリアはぱっと離れる。これ以上触れていたら、きっと離れられなくなってしまう。
床に視線を落としたまま、涙を堪えるように笑みを浮かべる。何度か瞬きをして、ちゃんと笑顔を作れることを確認して肩顔を上げる。
「それでは、また……」
アリアは一礼して、リベルトの執務室を後にした。
***
女官が紅茶を用意するのを待ってから、リベルトも向かいに腰をかけて口を開いた。
「アリアが来るなんて、何かあったか?」
「……リベルト陛下とお話がしたくて、参りました」
「話?」
リベルトの眉が、ぴくりと反応する。
話の先を促されて、アリアは少しずつ口を開く。
「わたくしは、あの夜から……ずっと考えてきました」
「アリア……」
どうするのがいいか。
自分は力になれるのか。
リベルトにとって、どういう存在なのか。
「もしかしたら、リベルト陛下が死んでしまうのではないかと考えたら、とても恐ろしかったです」
今はこうして生きてくれているけれど、次はどうなるかわからない。
アリアはそっと目を閉じて、小さく深呼吸をする。
「確かに、わたくしも、エストレーラも、リベルト陛下を助けられるほどの力はないかもしれません。ですが、倒れそうになったリベルト陛下を支えることならできると思いました。私は、あなたの隣に立ちたい……っ!」
「…………」
真剣な瞳のアリアを見て、リベルトはどうしたものかと思案する。
この間の事件のことで、アリアにはひどく心配をかけさせてしまった。
リベルトがもっと上手く立ち回れていたらよかったのだけれど、失敗してしまったのだ。
すぐにでも、リベルトがアリアを婚約者にすると告げればアリアの望みはあっさりと叶う。しかしそれは、今までになかった危険が伴うのだ。
今度はアリアに毒が盛られてしまうかもしれない。そうしたら、命が助かるなんていう保証はどこにもないのだ。
リベルトはそれをよしとはしない。
大切な人だからこそ、ちゃんと守りたいのに。
隣に立ってもらえたならば、どんなに心強いだろうか――。
アリアは反応を示さないリベルトに不安を覚え、膝の上に載せている手をきゅっと握る。
「……私がリベルトであると正体を明かしたときに言ったことを、覆すつもりはない」
「リベルト陛下……」
「今はまだ、そのときではない」
だから待っていてくれと、優しい低い声がアリアに届く。
もちろんそれを一度了承しているし、アリアも我儘を言っているのは自分だという自覚はある。
「でも、わたくしはリベルト陛下におひとりでいてほしくはないのです。苦しくて辛いとき、側にいられないのは情けないです」
「駄目だ」
けれど必死のアリアの思いは虚しく、一蹴されてしまう。
アリアがなんて言おうと、リベルトは譲る気はない。
アリアにもそれはわかっているが、この間のように知らない間にリベルトが毒を盛られて倒れていたらと考えると……待っているだけなんて無理だ。
「私の近くは危険が多い。アリアを嫌って言っているわけではないと、理解してくれ」
「それは……」
理解はしているが、心がついていかない。
「今日は許可したが、今後は謁見もしない。もし何かあれば、フォンクナー大臣に伝えてくれたらいい」
「……っ!!」
リベルトとして会うことはしないと言われて、胸が痛む。
おそらく何を言っても、話は平行線のままだろう。
(私のためだっていうことは、わかってるのに……っ)
ひどく冷たく見えるリベルトの態度だけれど、実はそれが愛だということはアリアが一番よくわかっている。
絶対的に守られているというのが、わかる。
だからこそ、アリアも支えたいと思ったのだ。
(せめて支えられるくらい、私が強かったらよかった)
アリアは深呼吸をして、リベルトを見る。
「……本日は失礼させていただきますね。お忙しいのに、わたくしにお時間をいただきありがとうございました」
「アリア」
ゆっくり立ち上がり、帰ろうとしたアリアの手をリベルトが掴む。口では関わるなと言うくせに、行動が真逆だ。
アリアは小さく笑って、リベルトを見る。
「掴まなくても、わたくしはどこへも行きませんよ?」
「わかっている。……私が、触れたかっただけだ」
「!」
これは言い訳なのか、本心なのか。
(その言い方、ずるいです)
「落ち着いたら、食事に行く」
「はい」
こちらからの接触は駄目だけれど、リベルトがリントとして会いに来る分には問題ないらしい。
アリアは頷いて、リベルトの手に触れる。
何度もアリアのことを助けてくれて、抱きしめてくれた力強い腕だ。
「今日は帰ります。何かあったら、いつでもしあわせ食堂へ来てくださいね」
「ああ。必ず行く」
勇気を出して、アリアからリントの胸へと抱き着いた。
着やせするので普段は気づかないけれど、こうして触れると、たくましい体で必要以上にドキドキしてしまうのだ。
リベルトに抱きしめ返される前に、アリアはぱっと離れる。これ以上触れていたら、きっと離れられなくなってしまう。
床に視線を落としたまま、涙を堪えるように笑みを浮かべる。何度か瞬きをして、ちゃんと笑顔を作れることを確認して肩顔を上げる。
「それでは、また……」
アリアは一礼して、リベルトの執務室を後にした。
***