しあわせ食堂の異世界ご飯2
 栗を使った料理はたくさんあるが、アリアは栗ご飯が大好きだ。それに、材料があれば一般家庭でもできるので、ぜひ多くの人に食べてもらいたい。
 食文化のあまり進んでいないこの世界が、もっと美味しいもので溢れればいいのにとも思っている。
 しあわせ食堂のメニューが、その先駆けとなれば嬉しい。
「甘くて美味しいんですよ、栗ご飯。あ、そうだ。できたら、おにぎりにしますね」
「!」
 リントはアリアの作ったおにぎりが大好きなので、その提案にぴくりと反応した。嬉しかったようで、リントの頬が少しだけ緩む。
「楽しみにしている」
「はい。美味しいものを作りますね! っと、そろそろ厨房に戻らないと」
 ちょうど卵焼きの注文が入ったので、アリアは焦る。
「長々とすまなかったな。また食べにくる……と言いたいんだが、明日から忙しくなるからしばらく来るのは難しそうだ」
「仕事が落ち着く目途も、まだたたないんですよね」
 申し訳なさそうにリントが告げると、ローレンツも終わりの目途がついていないと言う。忙しいふたりなので仕方がないが、少し寂しい。
(それだと、せっかく栗をもらったのに栗ご飯を食べてもらえない……)
 仕事なので我儘を言うわけにもいかないが、せっかくなので食べてもらいたい。どうにかならないかと思案して、アリアは明日から忙しいなら今日渡せばいいのでは? と、考えた。
「リントさん、今日の夕方に少しだけ時間はありませんか? おにぎりを作っておきます」
「いいのか? 夕方なら、時間がとれる」
 アリアの提案を聞いて、リントは嬉しそうに「ありがとう」と告げる。
「――っと、そろそろ行かないとな。ローレンツ、行くぞ」
「はい」
 リントは食事代を払い、しあわせ食堂を後にした。
「ありがとうございました」
 アリアはそれを見送りながら、しばらく来られないと言われたことをぼんやり思い返す。
(おにぎりを渡したら、しばらく会えないのかぁ。でも、皇帝ってことを考えると、今までが会いすぎてた気もする)
 忙しいなか、時間を見つけて来てくれていたのだ。
 なら、自分も美味しい料理をいつでも食べさせてあげようと思うアリアだった。

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