しあわせ食堂の異世界ご飯2
 カレーとハンバーグはお昼過ぎに品切れたので、お店は閉店になった。
 アリアは片付けが終わってすぐ、リントからもらった栗を取り出して栗ご飯の準備に取りかかる。
「大きくて美味しそう!」
 まずはぬるま湯を用意して、そこに栗をつけておく。そうすることで、硬い皮が柔らかくなって剥きやすくなるのだ。
(とはいえ、硬い鬼皮のあとは実に張りついてる渋皮も剥くのが大変なんだよね)
 だが、そこを乗り越えなければ美味しい栗ご飯にありつけない。
「アリア、何してるんだ?」
「あ、カミル! おかえりなさい」
「ただいま」
 明日の分の仕入れをしてきたカミルは、閉店後も何かしているアリアを見て「新作料理か?」と楽しそうに聞いてきた。その通りなので、アリアは頷く。
「リントさんにたくさん栗をもらったから、栗ご飯を作るんだ」
「栗をご飯に入れるのか?」
 素直な感想を告げるカミルに、アリアは思わず苦笑してしまう。どこかで聞いた台詞だなと思いつつも、「美味しいんだよ」と栗ご飯のことを説明する。
「ビタミンや亜鉛が多いから、肌とか髪にもいいんだよ。老化防止してくれるし、髪の発育にいいんだ」
「へぇ、すごいんだな」
「でもね、食べすぎるのはよくないから適度にね」
 栗は栄養がたくさんあって美味しいけれど、カロリーが高いし、食べすぎると便秘になりやすくなってしまう。それは、栗に含まれる食物繊維が腸内の水を吸収する不溶性食物繊維だからだ。
 とはいえ、そんな説明をしてもこの世界の人にはわからない。なので、アリアは食べすぎ注意と言うだけにとどめる。
(私も栄養学を学んでいたわけじゃないからね)
 アリアもうろ覚えの知識が多いので、あまり詳細を説明したりはしない。
「栗は剥くのが面倒だから、そう頻繁に食べたりはしないな」
「そうそう、面倒なんだよね」
 苦笑しながら、アリアはぬるま湯につけておいた栗の皮をむき始める。けれど、面倒だと言ったカミルも栗を手に取って剥くのを手伝ってくれた。
「いいの? お店は終わったし、のんびりしてても……」
「俺だって食べる予定なんだから、これくらい手伝うさ」
「じゃあ、よろしく」
 今剥いている栗は、今日の夜ご飯と、リントとローレンツのおにぎり用だ。なので、カミルの分もちゃんと計算してある。
 のんびり栗を剥いていると、カミルが少し悩みつつも口を開く。
「そういやさ、その、リントさんと仲良くなったんだな」
「え?」
 思いがけない言葉に、アリアは手が止まる。
 だってまさか、カミルにそんな話を振られるとは考えてもみなかった。なんて答えるのがいいだろうと悩みながら、アリアは言葉を返す。
「そうだね。リントさんには、この国に来る前にお世話になったし……仲良くなれて嬉しいと思ってるよ」
「狼から助けてもらったって言ってたもんな」
「そうそう」
 正直に言うと、事情を知っている人以外からリントの話を振られると困ってしまう。恋人同士だということは言えないし、王女と皇帝であることも内緒なため、嘘をつくかたちになるのが心苦しい。
 アリアは誤魔化すように笑って、何か違う話題はないだろうかと探す。のだが、それより先にカミルが一歩踏み込んできた。
< 8 / 68 >

この作品をシェア

pagetop