水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
「そろそろさ……」
「そろそろ、なに?」
「俺の、ことも……」
いくら恋愛経験の少ない波音でも、その先は予測できる。言わないでほしい、と波音は願った。
「姫野先生ー! あ、深水先生も!」
遮られるように大声で名前を呼ばれ、大和は言葉を切った。波音が担当する生徒の一人・前田ひろみが、砂に足を取られながら必死で駆けてくる。
ただ事ではないようだ。波音も大和も、慌てて立ち上がった。
「前田さん、どうしました?」
「千紗《ちさ》が、浮き輪に掴まったまま、波の引きの流れで、どんどん遠くに流されちゃって……! 戻ってこられないんです!」
「南《みなみ》さんが? わ、分かりました!」
南千紗は、ジムに通い始めて約一月。まだ自力ではほとんど泳げない、初心者だ。前田の指さす方向を確認し、波音はすぐにジャージを脱ぎ捨て、ライフジャケットを二人分掴むと、全速力で走り出した。
千紗は恐らく、離岸流《りがんりゅう》に掴まってしまったのだ。沖に流されると危険だ。
「なみっ……姫野先生! 待って、俺が!」
「大丈夫です! 行ってきます!」
大和の引き留める声が聞こえたが、波音の意識は既に、教え子を守ることにだけ向けられていた。高い波が来て、千紗を浮き輪から引きはがしてしまえば、溺れてしまう可能性もある。
大和との会話に気を取られ、現場を見ていなかったことを悔やみながら、波音は海の中にざぶざぶと入っていった。
「そろそろ、なに?」
「俺の、ことも……」
いくら恋愛経験の少ない波音でも、その先は予測できる。言わないでほしい、と波音は願った。
「姫野先生ー! あ、深水先生も!」
遮られるように大声で名前を呼ばれ、大和は言葉を切った。波音が担当する生徒の一人・前田ひろみが、砂に足を取られながら必死で駆けてくる。
ただ事ではないようだ。波音も大和も、慌てて立ち上がった。
「前田さん、どうしました?」
「千紗《ちさ》が、浮き輪に掴まったまま、波の引きの流れで、どんどん遠くに流されちゃって……! 戻ってこられないんです!」
「南《みなみ》さんが? わ、分かりました!」
南千紗は、ジムに通い始めて約一月。まだ自力ではほとんど泳げない、初心者だ。前田の指さす方向を確認し、波音はすぐにジャージを脱ぎ捨て、ライフジャケットを二人分掴むと、全速力で走り出した。
千紗は恐らく、離岸流《りがんりゅう》に掴まってしまったのだ。沖に流されると危険だ。
「なみっ……姫野先生! 待って、俺が!」
「大丈夫です! 行ってきます!」
大和の引き留める声が聞こえたが、波音の意識は既に、教え子を守ることにだけ向けられていた。高い波が来て、千紗を浮き輪から引きはがしてしまえば、溺れてしまう可能性もある。
大和との会話に気を取られ、現場を見ていなかったことを悔やみながら、波音は海の中にざぶざぶと入っていった。