水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
嬉しいような、後ろめたいような、複雑な気分だ。波音が俯いていると、渚は話を止めて波音の両頬を手で包み、顔を上げさせた。
「波音、私に遠慮しなくていいのよ」
「……え?」
「初めて会った日に私の恋路を邪魔するなって言ったけど、もうそれは終わったの。碧が好きなら、素直にぶつかりなさい。碧が波音を選ぶなら、私は全然文句なしよ」
「え、いやっ……違います! 私は碧さんのことが好きとかじゃなくて!」
「……あんたも結構鈍感ね?」
目を丸くしている波音を見て、渚は呆れながらも笑い始めた。ぺちぺちと波音の頬を叩いたかと思えば、椅子から立ち上がり、「もう少しゆっくりしてから戻ってきなさい」と言って、医務室を去って行く。
ぽかんとしたまま取り残された波音は、ベッドに横になった。
(私が、碧さんを好き……? 碧兄ちゃんじゃなくて?)
昨夜、碧に対する恋愛感情は否定したばかりだ。波音の心には、まだ『碧兄ちゃん』が確かに存在し続けている。考えても分からない。もやもやする。
それよりも今は、明日の綱渡りの再挑戦に向けて、少しでも練習をしなければ。滉にこれ以上失望されたくないし、観客を喜ばせたい。碧に、「よくやった」と言ってもらいたい。
波音は身体を起こし、渚がしてくれたように自分の頬を強く叩いて、邪念を追い払った。
「波音、私に遠慮しなくていいのよ」
「……え?」
「初めて会った日に私の恋路を邪魔するなって言ったけど、もうそれは終わったの。碧が好きなら、素直にぶつかりなさい。碧が波音を選ぶなら、私は全然文句なしよ」
「え、いやっ……違います! 私は碧さんのことが好きとかじゃなくて!」
「……あんたも結構鈍感ね?」
目を丸くしている波音を見て、渚は呆れながらも笑い始めた。ぺちぺちと波音の頬を叩いたかと思えば、椅子から立ち上がり、「もう少しゆっくりしてから戻ってきなさい」と言って、医務室を去って行く。
ぽかんとしたまま取り残された波音は、ベッドに横になった。
(私が、碧さんを好き……? 碧兄ちゃんじゃなくて?)
昨夜、碧に対する恋愛感情は否定したばかりだ。波音の心には、まだ『碧兄ちゃん』が確かに存在し続けている。考えても分からない。もやもやする。
それよりも今は、明日の綱渡りの再挑戦に向けて、少しでも練習をしなければ。滉にこれ以上失望されたくないし、観客を喜ばせたい。碧に、「よくやった」と言ってもらいたい。
波音は身体を起こし、渚がしてくれたように自分の頬を強く叩いて、邪念を追い払った。