水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
「えっ……いや、いただけないです!」
「僕からの気持ちです。青い薔薇には、不可能を可能にする力があるんですよ」
「と、言われましても……」
「明日も頑張ってほしいので」

 波音が困っていると、波音の両隣に並んでいた、シンクロダンスを得意とする空中曲芸師の双子・美海《みう》と宇海《うみ》が、揃って波音の背中を押した。

「波音ちゃん、うちの曲芸団は、お客さんからのプレゼントはありがたく受け取るんだよ」
「そうだよ、もらっちゃいなって」
「あ、じゃあ……それなら。あの、ありがとうございます」
「いいえ。僕も嬉しいです」

 波音は恐る恐るその髪飾りを受け取った。男性はくすっと笑い、「また来ます」と告げて去って行った。

「あ、名前聞きそびれちゃった……」
「波音ちゃん、やるねー。あの方、この国の第二皇子。冷泉砂紋《れいぜん さもん》様」
「ええっ!?」

 美海からとんでもない情報を聞いて、波音は飛び上がった。危うく髪飾りを落としそうになり、慌てて掴み直す。皇族ならば、あの溢れ出る優雅なオーラも説明がつく。

 そんな人がなぜ、波音にプレゼントをするのだろうか。

「だ、第二皇子ってことは……碧さんの、義理の弟ですか?」
「そうだよ。公演もちょくちょく見に来るけど、誰かにプレゼントを渡しているところは初めて見た」
「波音ちゃん、青薔薇の花言葉って知ってる? 不可能を可能にするって意味だけじゃないんだよ」

 宇海がそっと波音に耳打ちした。「『あなたに一目惚れしました』って意味があるんだって」と。
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