水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
「これくらいで満足するなよ」
「……はい」
「あと、団長にも感謝するんだな」
「もう、すっごく感謝しています」

 碧が皆に話を続けている中、滉はいつもよりやや穏やかに話し掛けてくれた。少しは波音を認めてくれたのだろうか。波音は、嬉しさのあまり、泣きながら滉へと笑顔を向けた。

「っ……早く、泣き止め!」
「は、はいっ! すみません!」

 なぜ叱られているのか分からないまま、波音は返事して涙を拭った。直後、話を聞いていない二人を見かねてか、碧が大きく咳払いをする。滉と波音は慌てて姿勢を正した。

「それで、以前話していた新たな演目を、そろそろ決めていきたい。何か提案はあるか?」

 この短期間で、危険な技を外して新しい技を取り入れていた団員たちは、他の事を考える余裕がなかった。碧が意見を募るが、場は静まり返っている。

(提案か。私が得意なのは泳ぎとダンスだから、例えば……)

 波音は、はっと閃いた。実現できるかどうかはさておき、アイディアを出すことは構わないはずだ。手を挙げて立ち上がる。
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