水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
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 巨大水槽が完成して、二週間後。演出や舞台装置の綿密な打ち合わせを経て、ついに、水中ダンスショーを披露する日がやってきた。

 開催前から街中でもビラを配り、チケットの売れ行きは好調。期待度は高く、一ヶ月先の公演まで完売してしまった。

(これが『睡蓮』の知名度と人気なんだ……)

 数々のプレッシャーに打ち勝ってきたはずの波音だが、周囲から楽しみに待たれているとなると、気を張り詰めさせてしまうのも無理はない。

 未だ反響の掴めない演目であるということもあり、初日は開演直後に『水の踊り子』を披露することになった。

 ステージの中央に、地下から電動リフトで水槽を上げ、そこに高台から波音たちが飛び込んでいくことになっている。

「波音。準備終わったか?」
「いよいよね、波音」
「碧さん、渚さん! はい。美海さんと宇海さんも準備が終わって、あっちに待機しています」

 会場が観客で埋まり始めた頃、波音は着替えとヘアメイクを終えて、舞台裏でストレッチをしていた。そこに、碧と渚がやってくる。

「へえ。これが水に濡れても落ちないメイク、か。短期間でよく開発してもらったな」
「はい! 国に特許を申請するって、ヘアメイクチームの皆さんが言ってました」
「そうか」
「なんか生き生きしてるわね。その衣装も、すごくおしゃれ」
「これも、衣装係の皆さんが頑張ってくださったんです」

 波音の衣装は、青色を基調とし、人魚をイメージしたものだ。上半身はビキニで、下半身はフリルスカートのついたタイツ。足を閉じた時に人魚の尾ひれに見えるようにデザインされている。

 水の抵抗を極力制限するため、撥水加工が施された上に無駄な布は省かれているので、肌面積が多く、なかなか際どい衣装でもある。
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