水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
「……男性客が増えそうだな」
「あら、碧。今頃気付いたの? 可愛くてセクシーな衣装を着てる女の子たちが三人も踊っていたら、それは噂になるわよ。いずれうちの花形演目になるかも」
「それはそれで複雑なんだが……」
「あはは……。そうなれれば、いいんですけどね」

 とにもかくにも、今日の観客の反応を見てみなければ分からない。反省点も出るだろうから、それを次に繋げていく必要がある。

 渚の言うように、碧のピエロほどではなくても、人気を博す演目に仕上げていきたいと、波音は思った。

「……波音、まだ時間あるか?」
「はい。どうしました?」

 そろそろ高台へ上がろうとしていた波音を引き留め、碧が歯切れ悪くそう言った。目を左右に泳がしている。

「あー……渚、外してもらえると助かる」
「あっ! あらあら、ごめんなさいね。気が利かなくて」

 渚は少しだけ寂しそうな視線を碧に向けたあと、波音にウインクをして、そそくさと逃げていった。開演までもう間もないというところで、碧は一体どうしたというのだろうか。

「……これを、渡したいと思った。お前に」
「あれ? これって砂紋さんの……」
「馬鹿、違う。これは俺が持ってたやつだ」

 碧が手に持っていたのは、青い薔薇の髪飾り。だが、よくよく見れば、確かにデザインが微妙に異なる。

(それを、渡したいって……え!?)

 弾かれたように波音が顔を上げると、碧は顔を真っ赤にして、口元を手で覆った。今の台詞だけでも、彼にとっては精一杯の告白だったのかもしれない。

「……いつまた砂紋がお前を奪いに来るかと思うと、気が気じゃなかった。だから、俺も正直になることにする」
「それって……」
「波音、俺と結婚してほしい」

 飾り気のない、直球の言葉。強引で不遜な彼が、不器用ながらも伝えてくれた。「好き」だとか「愛してる」とか、まずは恋人として付き合うとか、それらを全部すっ飛ばして。

 本番前だというのに、他のことなんて全部忘れ去ってしまうくらい、碧のことで頭がいっぱいになる。
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