水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
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 その日の公演は、大盛況に終わった。観客の見送りに外へ出ると、子どもたちが一斉に波音の元へと寄ってくる。

「綱渡りのお姉さん! 水の中のダンス、すごかったよ!」
「本物の人魚みたいだった!」
「この衣装可愛い~!」
「あ、ありがとう」

 周りを囲まれ、口々に褒めそやされ、波音は困ったように笑った。握手をせがまれ、花束を渡され、大忙しだ。

「波音さん」
「はい! あ……砂紋さん」
「新しい演目、素晴らしかったです。楽しませていただきました」

 子どもたちの包囲からようやく解放された後、それを待っていたかのように、砂紋が現れた。

 あれから二週間、音沙汰がなかったのだが、水中ダンスショーをすると聞いてやって来たのかもしれない。

(この前の話、断らないと……)

 ここでは人目につくからと、波音は団員たちの列を抜け、建物内のロビーへと砂紋を案内した。休憩所に空いているテーブルを見つけ、そこに向き合って座る。

「すみません、こんなところで……他にいいところがないものですから」
「いえ、構いません。僕は団長の弟とはいえ、部外者ですので。それよりも、今日の水中ダンス……『水の踊り子』ですか。波音さんがあまりにも優雅で美しくて、見とれてしまいました」
「い、いえいえ! そんなことありません」
「すごく楽しそうに踊っていて、僕の目に間違いはなかったと確信したところです」

 歯の浮くような台詞を平気で言う人間がいるのだと、波音は驚いていた。これが碧なら、もし頼まれたとしても、絶対に言わないだろう。
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