水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
「髪飾り、つけてくださったんですね」
「あっ……」

 砂紋が波音の髪を見ながら笑顔になった。外しておくべきだったかと後悔しても、もう遅い。遠目には、砂紋のものなのか碧のものなのか分からないだろうが、これは碧にもらったものだ。

 不器用な彼がくれた、確かな愛の証。できるなら外したくはない。

(どうしよう……本当のことを言ったら、傷つくよね?)

 この場は砂紋に話を合わせるかどうか迷ったが、波音は首を横に振って否定した。碧の想いを踏みにじるような真似は、たとえ冗談でもできない。

「ごめんなさい。これは、碧さんにもらったものです。砂紋さんにいただいたものは、別に保管してあります」
「……え? 兄さんが、あなたにプロポーズを?」
「……はい」
「それで、あなたは兄さんの方を選んだ、ということですか……。困りましたね」

 砂紋は突如、柔和だった表情を崩し、不気味な笑みを浮かべた。とてもじゃないが、困っているという顔には見えない。

(なに? 急に雰囲気が……)

 砂紋が椅子から立ち上がり、波音の方へと近寄ってくる。恐怖と驚きのあまり、波音は動けないでいた。

「波音!」

 名前を呼ばれ、声のした方を見ると、碧と滉が駆け寄ってくるところだった。
< 123 / 131 >

この作品をシェア

pagetop