水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
(碧さんにとって、一番大切なのは……曲芸団だから)

 やはり、波音が砂紋のところに嫁ぐのが正解だろう。波音は心を決め、髪飾りを外した。それを碧の手に返す。

「お前……」
「今まで、お世話になりました。できることなら、もっと……」
「っ……あー! だめだ行くな! やっぱり、どっちも譲れない!」

 砂紋の方へ行こうとした波音を、碧は抱き寄せて止めた。涙がまた一筋、頬に痕を描く。

(やっと、言ってくれた……)

 碧はとんがり帽子をかなぐり捨て、砂紋に向かって深々と頭を下げた。涙のマークを描いたピエロがお辞儀をしているなど、傍目からは滑稽にしか映らないが、波音はそれで十分だった。

「砂紋、今まで勝手をしたことは謝る。天皇が許してくれるから、甘えていた。お前には苦労をかけたし、申し訳ないとも思っている。でも、頼むから俺の大切なものだけは、奪わないでくれ……!」
「それが、兄さんの本音ですか?」
「……そうだ」
「はあ……とんだ茶番ですね。悪役を任された僕の気持ちも、考えてほしいものですよ」

 砂紋は大きく息を吐き、脱力して椅子に掛けた。そして、最初に見せていた穏やかな笑顔へと表情を戻す。
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