水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
(不思議……。どういう仕組みなの?)

 碧の言った通り混乱する羽目にはなったものの、波音は気持ちをリセットして、次の話を聞いた。

 天皇のいる法治国家であることや、国民は戸籍で管理されていること、紙幣や硬貨を用いて売買することなどは、日本のそれらと似ているようだ。つまり、日本とは似て非なる国である。

「あとは……生活するうちに慣れるだろ。分からなかったらその都度聞いたらいい」
「はい。ありがとうございます」

 百聞は一見にしかず。見て、体験して覚えることも多いはずだ。ある程度、情報の整理ができて、波音の気持ちが和らぐ。

 残りの食事をしてしまおうとフォークを握ったところで、碧の皿が目に留まる。

 碧ばかりが話していたというのに、その皿はほとんど空になっていた。このままでは、また「早くしろ」と急かされかねない。

「あっ……急いで食べますので!」
「ゆっくりでいい。慌てて食べると喉に詰まらせる」
「……はい」

 まただ、と波音は思った。思いがけず優しくされると、調子が狂う。胸がきゅっと絞られるような感覚がするのだ。

 それは、幼い頃、『碧兄ちゃん』に抱いていた恋心に近いようで、ますます訳が分からなくなる。

(違う……襲われかけて、変に意識しているだけ)

 おんぶしてもらった時までは、好感が勝っていた。目の前の碧のことを、もっと知りたいとさえ思っていたのに、今では複雑な気持ちになっている。
< 45 / 131 >

この作品をシェア

pagetop