水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
「きゃっ!」
「おい!」

 衝撃に備えようとして目を瞑ると、波音の手が強く引かれ、その後すぐに腰を抱き寄せられた。

 碧が、あいていた腕を咄嗟に回して助けてくれたのだ。片方のサンダルだけが脱げて、小さな音を立てながら階段下に転げ落ちていった。

「はー……だから、手を握ってて正解だっただろ?」
「すみませんっ!」
「ったく、気を付けろ。このドジ」

 平らな面に足の裏をつけて、波音はしっかりと立ち上がる。碧は波音から離れて、落ちたサンダルを拾いに行った。

 腰を抱かれた感覚にドキドキしていると、戻ってきた碧が波音の足元にしゃがみ込み、サンダルを履かせようとする。

「あ、自分で……」
「いい。しっかり親指に掛けろ」
「はい……。ありがとうございます」

 有無を言わせず、碧はそのまま波音の足をとって履かせてしまった。ガラスの靴のようにおしゃれなものでもないのに、男性にそうされると、大切に扱われているような錯覚に陥る。

 触れられた足が熱を持つが、波音は気にしないようにと必死に堪えて、碧に礼を言った。

 やっとのことで大通りへと出て、波音は碧の隣に並び、ひょこひょことついていった。朝の市場はすっかり活気に溢れていて、新鮮な野菜や果物、獲れたての魚類が売られている。

 碧はあちこちの店主から声を掛けられ、知名度の高さを窺わせた。
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