水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
(昨夜のこと、まだ気にしてるのかな)

 また襲われたらたまったものではないが、波音は碧のことをとっくに許したのだ。これから二人は、雇い主と雇用者の関係になる。良い関係を築いていきたいと思うのは自然なことだった。

 市場を抜けて二つ目の通りを曲がると、両側にアクセサリーショップやブティックが並んでいた。

 こんな朝から開店しているだろうかと疑問に思っていたが、どの店も既に『営業中』の札が掛かっている。

 市場ほどの賑やかさはなくとも、ちらほらと客の出入りもあるようだ。南国らしい明るく色鮮やかな服飾を眺めて、波音は感嘆の息をもらした。

「洗い替えも考えて、必要な分を買ってこい」
「いいんですか?」
「もちろん、使った金は、後でお前の給料から天引きするけどな?」
「……できるだけ節約します」
「それでも、下着くらいは色気のあるものにしろよ」
「そ、それは私の好きにさせてください!」

 からかう碧から財布を手渡され、波音は事前に断ってから中身を確認した。価格相場がまだ分からないが、零の四つついた紙幣が十枚以上は軽く入っている。

 もし日本円と同価値だと考えれば、十万円以上だということだ。波音の目玉が飛び出そうになった。
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