水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
(いや、もしかしたら、この国では服が高価ってこともあるかもしれないし……)

 碧はベンチに座って待っておくとのこと。長居はしないように言いつけられ、波音は一人、気になるお店から回ってみることにした。

 どの店員も、波音の今の格好には違和感があるようで、店に入ってくるなりちらっと視線を寄越す。

 波音も気が気ではなくて、早く決めて買ってしまおうと、三店舗目で下着も併せて数着の服と靴を二足買った。

 買ったものを着て帰っても問題ないとのことで、試着室を借りて着替え、もともと着ていた碧の服とサンダルは、丁寧に紙袋に入れた。下着は至って普通のシンプルなものを選んだ。

 ただ、驚くべきはそれらの値段だ。波音の予想は裏切られ、一着あたりの値段が二桁から三桁と、かなり安価だ。

 だからと言って素材が安っぽいわけでもなく、縫い目や刺繍は丁寧だし、デザインも可愛い。

 碧から預かった金額で、一体どれほど多くのものが買えるのか。紙幣一枚で、多くのお釣りが返ってきた。

(碧さんって、実はもの凄くお金持ち……?)

 波音はぽかんとしながら、店を後にした。この財布は、曲芸団の団長としての稼ぎか、それとも皇族の財産か。

 しかし、碧の性格なら、血の繋がっていない皇族の富を、自分のもののように振る舞うことはしないだろう。きっと前者だ。
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