水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
(例えるなら、手が届きそうで届かない王子様、なんだろうなぁ)

 後々の請求が怖いので、必要最低限の分だけ揃えて、波音は碧の元へと戻った。

 青いカットソーと白のショートパンツ、花型コサージュのついたサンダル姿になった波音を見て、碧は一時停止された映像のように固まっている。

「お財布、お借りしました。ありがとうございました。領収書は中に入れてありますので」
「……あ、ああ」
「……? もしかして、似合っていませんか?」
「いや。いいんじゃないか?」

 波音の不安をよそに、碧は頬を赤らめてそっぽを向いた。

 似合っていない場合、碧ならはっきり「ダサい」「鏡をちゃんと見てこい」などと言うはずだ。そうでないということは、素直に喜んでもいいらしい。

「ありがとうございます」
「……別に褒めてない」
「私にはそう聞こえたので」
「生意気言うな。倍にして請求するぞ」
「いたっ」

 昨日と同じく頭頂部に軽い手刀を食らい、波音は黙った。しかし、碧の精一杯の照れ隠しがなんだか可愛らしく、にやにやするのは止められなかった。
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