水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
「素人を綱渡りに出すなんて……この曲芸団の評判に傷がつきます!」
「どっちにしても、今回の事故の噂はすぐに広まる。なら、既に技術を持った団員が命綱をつけて代わりに出るより、新人が綱渡りに挑戦して、成功する方が観客の心証はいいだろう」
それは、曲芸団側がどれだけの練習と覚悟をもって本番に挑んでいるのかを、観客に証明するということだ。そして、怪我をしてしまった紫のプライドを守るためでもある。
「紫だって、プロとしての誇りを持って挑んでいたはずだ。お前だって、必死に身につけた技を、軽々と他人に奪われた場合を考えてみたら分かるだろう」
「……それは、そうですが」
「波音、どうだ。引き受けてくれたら、紫が復帰するまで、給料は二倍にしてやる」
「え!? や、やります!」
波音はその場で返事をした。給料につられたというのもあるが、やっと自分にできることが増えたのが嬉しかったからだ。
バランス感覚について自信はないが、体幹《たいかん》なら昔からずっと鍛えている。練習次第では、それなりにできるようになるかもしれない。
波音が承諾したことで、滉をはじめとした団員たちがざわついた。渚も驚いて首をすくめているが、碧だけは嬉しそうに口角を上げていた。
「どっちにしても、今回の事故の噂はすぐに広まる。なら、既に技術を持った団員が命綱をつけて代わりに出るより、新人が綱渡りに挑戦して、成功する方が観客の心証はいいだろう」
それは、曲芸団側がどれだけの練習と覚悟をもって本番に挑んでいるのかを、観客に証明するということだ。そして、怪我をしてしまった紫のプライドを守るためでもある。
「紫だって、プロとしての誇りを持って挑んでいたはずだ。お前だって、必死に身につけた技を、軽々と他人に奪われた場合を考えてみたら分かるだろう」
「……それは、そうですが」
「波音、どうだ。引き受けてくれたら、紫が復帰するまで、給料は二倍にしてやる」
「え!? や、やります!」
波音はその場で返事をした。給料につられたというのもあるが、やっと自分にできることが増えたのが嬉しかったからだ。
バランス感覚について自信はないが、体幹《たいかん》なら昔からずっと鍛えている。練習次第では、それなりにできるようになるかもしれない。
波音が承諾したことで、滉をはじめとした団員たちがざわついた。渚も驚いて首をすくめているが、碧だけは嬉しそうに口角を上げていた。