Project Novel
●しゃぼんだま
その人は、少し変わった人だった。
向かい側の校舎だからあんまり会うこともなかったけど、それでも私はよく知っている。
例えば授業中に鞄を置いたまま脱走を謀ったり
いきなり英語しか話さなくなったり
お昼休みに出前の鰻重を注文したり
「明るくない」と言って、学校の壁の色を一晩で塗り替えてしまったり。
そんなことをするのは大抵その人だったし、そんな人だから学校でもとても目立っていて、嫌でも目についた。
その人はいつも笑ってた。
少し癖っ毛の茶色い髪は、その瞳の色と同じで。
たまにすれ違って見上げるそのトーンが、実はちょっとだけ好きだった。
その人は、何もかもを持っていると思ってた。
だからこそ、そんなに自由に生きれるのだと思ってた。
その奔放さは、私みたいな日陰の存在にとって、正直眩しすぎた。