Project Novel
●花かざり


何気無しに言った言葉だったんだ。


ヘアピン可愛いねって言われたから、「花のモチーフ、好きなんだ」って。


自転車の後ろに乗って、彼と同じ風を感じて。

「そうなんだ」って軽く言っただけだった。
そんな会話を沢山した。



人はいつも無い物ねだり。

何かを手に入れれば、それ以上を求め始める。

彼と出会って、心の底から生きたいって思えて、彼さえいれば何もいらないと信じて。


あの頃求めてたものは、全て手に入ったのに。

なのにあたしは、またそれ以上を求めてしまって。



もう1週間、帰ってこない。

今度こそ本当に終わりだと思った。

二人で借りた部屋を、少しずつ片付ける。

狭い部屋のはずだった。
なのにどうしてこんなに広いんだろう。


ピアス、ネックレス、指輪。
彼からもらったものは沢山あった。でもそれ以上のものを、あたしは沢山もらった。

あたしは何を返せただろう。

好きなだけじゃ、どうしてうまくいかないんだろう。


故障しかけた涙腺。歪んだ景色も、もう見慣れてしまった。



「…ごめんね」



何度も呟いた一言。
彼に言えなかった一言。

今更もう、遅いのに。


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