Project Novel
「遅ぇよ」
不意に、肩越しに届いた声。
あたしが世界一、好きな声。
振り向くと、ばつが悪そうな彼が立っていた。
窓から射し込んだ夕日が、彼の右頬を染める。
差し出したのは白いアルバム。
もうそれだけで、全てが理解できた。
半べそのまま、口を開く。
「また…行ってきたの?」
「…うん」
「だから帰って来なかったの?」
「…これしか、思い付かなかったから」
アルバムを開かなくてもわかった。
この中には、あたしの大好きな花が詰まってる。
彼のファインダー越しに映る、優しい花達が。
沢山喧嘩もした。だからよくわかってる。
これが彼の、ごめんのしるし。
不器用で精一杯の、彼の優しさ。
「…許すよ」
「それ、俺のセリフだろ?」
「喧嘩両成敗って言葉、知らないの?」