Project Novel
「…へたくそ」
ずっと鼻をすすって呟いた。
「お前のために歌ってやったのに」
膨れっ面をするあいつの背には、沈みかけた夕日。
潮風に晒されて乾いた顔に、あたしはゆっくりと笑顔を浮かべた。
「帰ろっか」
……………
涙の味がしょっぱいのは、ずっと海のせいだと思ってた。
でもそれは幼い頃の話で、大人になり、それは常識的にあり得ないことだって自然と知っていった。
いつからか、お母さんに怒られても泣かなくなったし、テストの成績が悪くても、友達と喧嘩しても、涙を流すことは少なくなった。
泣くことが少なくなった訳じゃない。
泣く理由が、変わっただけだ。
大人になるってこういうことなのかな。
…打ち寄せる波は何一つ変わっていない。
あたしの涙を受け入れてくれるかの様に、優しく、しょっぱい海の水を寄越す。
「せめて…あたしの知らない子にしてよね」