Project Novel
しばらくあいつは立ったままだったけど、やがてザッと防波堤の上に登る音がした。
あたしの横に立ったままのあいつ。
何だか妙に居心地が悪くて、あたしは波の打ち寄せるテトラポットから視線を離せない。
昔はあんなに居心地よかったのに。
あたしはいつから、一人で泣く様になったんだろう。
「おばさんに怒られた?」
「…なわけないでしょ」
「数学のテスト悪かったんだ」
「言っとくけどあたし理系だし」
「そうだっけ」
ははっと笑うあいつ。
その声も、笑い方も、昔のものとは違った。
あたしが大人になるのと同じ様に、あいつも大人になっていく。
学校でも滅多に話さないし、すれ違っても挨拶程度。
いつからかそんな関係になっていた。
幼なじみなんて、結局そんなもの。
「…しょうがねぇなぁ」
波の音に紛れて、ガタンと異質な音がした。
視線を動かすと、あいつが肩にかけていた箱の様な物を開けている。
黒い丈夫そうなそれから取り出されたのは、目一杯夕日を反射させたサックスだった。
驚いたあたしを気にもせずに、空気をすっと吸い込む。
奏でられたメロディーは、いつか聞いたあの音楽。