Project Novel
声変わりのしてない幼い声で歌われていたそれは、穏やかな波と共にサックスの音色に変わっていく。
あたしも変わった。
あいつも変わった。
でもそのメロディーの持つ効果は、何一つ変わってなかった。
…「サックスなんてやってたんだ」
カチャリとケースに鍵をかける音と共に、「まぁね」という低いあいつの声。
「お前が音痴とか言うからさ」
「だって音痴だったじゃん。聞くに耐えなかったよ」
「うっせ」
…些細な小さな演奏会。
昔も今も、それはあたしを癒す。
気付いたら笑ってるあたしがいた。
多分あたしは、これからも一人でここで泣くだろう。
今日みたいな失恋かもしれないし、もしかしたらもっと辛いことかもしれない。
石灰を握ったあいつが隣にいることは、もうきっとない。
でも多分、大丈夫な気がする。
この距離感は変わらなくても、でもきっと、全てが変わってしまうことはないから。
多分、独りじゃないって思えるから。
「…帰ろっか」
立ち上がってあたしは言った。
斜め上で、あいつは小さく笑った。
【fin,】
…07.10.27…