Project Novel
●もしも、手をはなしたら


びゅうっと吹く秋風に両腕を抱えて、わたしは小さくくしゃみをした。

わたしが腰かけている階段を通りすぎる生徒が、気の毒そうな視線を向ける。
多分、何でこんな寒い中こんな場所で座っているんだろうと思われてるだろう。

ばつが悪そうに視線をずらして、すんと鼻をすすった。


…ここ最近、わたしはとことんダメだ。

今日だって、夕方こんなに寒くなることを知ってたら、マフラーのひとつも持ってきた。

それに、こうやって待つことに意味があるのかすらわならない。

そう思うと、益々心が冷えた。


顔を膝に埋めた瞬間、校舎にチャイムが鳴り響いた。
顔を上げて、やがて騒がしくなる昇降口に視線を送る。

このアングルを、わたしは何度見てきただろう。

どやどやと流れ出る生徒の中に、わたしは目ざとく彼を見つけた。
立ち上がって、声をかける。


「先輩!」


友達と話していた先輩は、その声で視線を前に向けた。

「お前、待ってたの?」
「うんっ!補講お疲れ様っ」
「遅くなるから待たなくていいって言ったのに…」

先輩は軽くため息をついた。
それが呆れたため息であっても、迷惑なため息じゃないから、だからわたしは待つ。

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