Project Novel
●寄り道でもして
……………
月が出ていた。
うっすらと雲に覆われて、それは妖しく優しく暗い地上に明かりを灯す。
彼女に出会ったのは、そんな不思議な夜だった。
…「寒いーっ!今日さ、一段と冷えてない?」
「言えてるー。秋通り越して冬だよ冬っ」
小さな屋根のあるバス停。人工的な明かりがこうこうと灯っている空間に、女の子達の会話が響いていた。
多分あたしくらいの年代。飲み会の帰りなのか、頬がほんのり赤かった。
それが一層、若さを際立たせる。溌剌とした生気を感じる。
あたしは視線を落として、文庫本のページを捲った。
ぱらりと、耳に響いた。
「てかさぁ、聞いた?真希の…」
「あ、聞いた。ちょっとさぁ、ヤバくない?あんま大きい声じゃ言えないけど…」
「だよね!あたし一瞬引いたもん。つかこんな話人前じゃできないけどさぁ…」
文庫本を閉じた。
人前じゃ話せない様な内容なら、あたしがここにいちゃまずいでしょ。
なおも話し続ける生き生きとした彼女達に背を向けて、あたしはバス停から少し離れた。