Project Novel

…ようやく静かな夜が戻ってきた。車一台通らない道路は、しんと、黙って起きている。
たまに通るバイクの音は、遠くからでも聞こえて遠くまで行ってもまだ聞こえた。

まだ微かに、彼女達の声が聞こえる。
でももう内容までは聞き取れない。

あたしは安心して、石垣にそっと腰をおろした。


月が出ていた。
穏やかな夜だった。


…不意に左耳に、声を聞いた。

始めは空耳にも思えたが、意識すればそれは次第に輪郭をはっきりと現してくる。

あぁ、泣き声だ。

しかも可愛らしいものじゃない。しゃくりあげる程泣いている。

一度気になりだすと、それは静寂を掻い潜って真っ直ぐにあたしの耳に届くようになってきて。

さっき落ち着けた腰を、あたしは再び上げた。



…「どうしたの?」

彼女はあたしから数m離れた先に座っていた。
やっぱり号泣。
彼女が嗚咽を漏らす度、闇に浮かぶ細い肩と柔らかなウェーブが揺れる。

あたしの声に、彼女は驚いて顔を上げた。

少しだけ、安心した。

「あ、ごめんね。泣いてたから気になって…」
「す、すみませんっ!」

彼女は急いで頬を拭った。
彼女は驚く程可愛らしい顔をしていた。
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