Project Novel
「スタートが産声で、ゴールは死でしょ。でも真っ直ぐ死に向かって歩くだけじゃ味気ないから、あたし達は精一杯寄り道するんじゃないかな。沢山寄り道して、沢山の気持ちも知っていって、それで死ぬ時、あぁ、沢山寄り道したなぁって、楽しかったなぁって。そう思えれば、幸せじゃない?」

彼女はそのビー玉の様な瞳を向けて、瞬きもせずに聞いていた。
やがてゆっくり目を閉じて、ゆっくり、噛みしめる様にして言った。
「…そうですね。寄り道してる間は、まだその恋を生きてるんですよね」

すっと息を吸って、吐くと同時に目を開く。
真っ直ぐに、月光が降り注ぐ。

「もうしばらく、寄り道続けます。寄り道でもして、また泣いて…ゴールに着いた時、笑って幸せな恋だったなぁって、言えるように」

綺麗な彼女が笑うと、益々綺麗に見えた。

あたしが微笑み返した時、遠くでバスの音が聞こえた。

「あ、バス来ちゃった。最終ですよね」

「乗らないんですか?」、彼女が言った。
あたしは首をふって、「寄り道中だから」と答える。
彼女は少しだけ不思議そうに笑って、「ありがとうございました」と会釈をし、バス停に向かった。

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