Project Novel
●ほんとうは、ほんとうは


消えちゃいたいって
本気で思ったの。



…「わ、寝てる」

薄目を開けたら、わたしを覗き込むあなたがいた。

鼻の頭が赤い。
走って来たのかな。

「寒くないの?」
「…そいや、寒い」
「ばかだ」

ばかじゃないもん、言いながらわたしは立ち上がる。
スカートについた草を払い、あなたはわたしの背中を払った。

「待った?」
「めーっちゃ待った」
「うそ」
「うそ。ほんとは20分くらい」
「なんだよ」

笑って、あなたはわたしに手を差し出す。
「ん」って。だからわたしは、その手を握る。

「冷た」
「寒かったもん」
「学校で待ってたらよかったのに」
「だって、この土手が好きなんだもん」

沈みかけた夕日が冬の空に綺麗。
橋の向こうからは、賑やかなジングルベル。

「街行く?」
「ケーキ食べようよ、クリスマスだし」
「太るぞ?」

あなたは歩く時、わたしの歩幅に合わせる。
その気持ちがとても暖かい。

でもほんとうは、苦しい。

「クリスマスって好き」
「俺も。無条件にテンション上がる」
「楽しいな」

「ほんとう?」、あなたは聞いた。
わたしは笑顔で頷く。

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