Project Novel
●神様のいうとおり
「神様っていると思う?」
君の口癖が小さな唇から漏れる。
僕は果物ナイフをりんごの表面に滑らせるのをやめて、それを棚のお皿に戻した。
「神様?」
「そう」
視線は冷えた窓の外。
枯れた木々が寒そうに揺れていた。もう雪は降らないだろう。そう思いながらも、この寒さが終わる日はこない気がした。
「いるのかな。わかんないや」
「あたしはいると思うよ」
「どうして?」
君が何を言うかはわかっていた。でも僕は聞いてやる。何度でも聞いてやる。
君の視線が動いた。優しい瞳が僕を捉える。
「神様がいるから、今あたし、あなたの側にいれると思うから」
雪のような笑顔。
それは綺麗で、限りなく綺麗で、それでいてこんなにも儚い。
まるで一瞬の幻影。
僕はそんな君の頭を、自分の胸に抱き締めた。
「…神様のおかげ、か」
「神様の決めたこと、よ。全部。この世にあなたがいるのも、あたしがいるのも、冬が来て春が来ることも」
だから大丈夫。君はきっと、僕にそう伝えてた。
だから僕も信じてた。この世に君がいることも、僕がいることも、時間が流れることも。
全て、神様が決めている。
神様のいうとおりなんだ、って。