クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
2時間ほどでミーティングを終え、外に出ると予報通り大粒の雨が降り出していた。

「結構降ってますね」
「まだひどくなるのかしら。今がピークかしら」

千石くんの準備したレインコートと傘を装備して駅に向かう。電車は遅れもなく動いていた。ああ、よかった。

「直帰って指示だから千石くんはこのまま帰宅していいわ」
「真純さんは?」
「会社に今日の資料置いてからにする。どっちみち帰り道の中間地点だから」

たいしたミーティングじゃないのに、資料だけはやたらと配られた。さすがにこれは営業部に届けなければならない。今日は帰宅指示で誰もいないだろうから、実際に渡すのは明日になるけれど。これを自宅まで持ち帰るのも、明日持っていくのも無駄な労力だ。

「それなら俺も行きます」

千石くんは私の手から雨よけにビニールに包んだカバンをひょいと取り上げた。

「いいって。私ひとりで」
「荷物は重たいですし、天候が悪い中、上司を使いぱしりにできません」

頑として聞かない。本当に面倒くさい人だなぁと思いつつ、仕方ないので同行してもらうことにした。直帰すれば彼は早く帰れるのに。

最近、千石くんに強引に迫られることはない。愛情表現はちょくちょくされるし、それを山根さんや持田さんに見られて冷やかされはする。
さっきの横手さんの件もそうだけど、みんなどうしてか応援体勢なのが気になる。
普通に考えてほしい。一流の男はそれなりの女を選ぶものだ。彼のように立場のある人間は、恋愛結婚だって、それ相応のクラスの女性と結ばれる。
年上の自社女性社員を選ぶことはないのだ。
そろそろみんなには理解してほしいし、焚き付けるようなことはやめてほしい。私のためにも千石くんのためにも。

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