クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「怖いならしがみついていればいいです」
「離して……千石くん」
「下心がないとは言いませんが、弱っているところにはつけこみません」

彼の声がいたって真面目で真摯だったので、私は少し警戒を解いた。というより、複雑に考えられなかった。暗いオフィス、稲光、轟音。パニックになりそうな私を抱き寄せ、背を摩ってくれる千石くんの温度。それは素直にありがたかった。
そっと千石くんの胸に右手を添えると、千石くんの左手が手の甲側から包み込むように握ってくれる。

「千石くん、ごめん……」
「何がです?」
「付き合わないなんて言っておきながら、こんな風に甘えてしまって」
「これは緊急避難に入りませんか?ノーカウントにしますよ。不本意ですが」

そんなことを言って私の罪悪感を薄めてくれる。彼の腕の中にいるので、表情はよく見えない。優しい千石くん。雷が怖いなんて、呆れただろうか。

雷が鳴り止むまでたっぷり三十分以上、千石くんは床に座り込んだ私を抱き締めてくれていた。
外の音が落ち着き、ようやくお互いに身体を離す。ちょっと気まずいので慌てて時計を見た。時刻は19時近い。雷は聞こえなくなったけれど、外はまだ雨音がすごい。
千石くんが忘れていたオフィスの電気をつけようと、壁に近づき声をあげた。

「つかないですね」

え?まさか停電?
窓の向こうにはいくつか灯りが見える。都庁も近いこの辺り、一帯が停電ということはないと思うんだけど。
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