クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
するとオフィスのドアがノックされる。懐中電灯とともに顔を出したのは守衛のおじさんだった。千石くんと抱き合ったままでいなくてよかった。

「雨と雷で停電しちゃってるみたいなんだよ」
「このビルだけですか?」
「このあたり全部。非常電源のある都庁や一部のビルは大丈夫みたいだけどな。電車もさっきの雷の影響で止まってるって」

嬉しくないニュースに慌てて携帯を確認する。携帯の通知には三十分前の雷予報と、乗り換えアプリからのいつも使う路線の運転見合わせの文字。

「おふたり帰れるかい?タクシー呼んであげてもいいけど、こういう状況だと配車断られちゃうんだよなぁ」
「ありがとうございます。もう少し様子を見ます。それまでここに待機でいいですか?」

千石くんが応対し、守衛のおじさんはポケットカイロを私たちにひとつずつくれ、守衛室に戻って行った。

「都心部は電車の復旧も早い……とはいえ、今日は夜間は計画運休ですね。せめて電気が復旧してくれれば暖をとれるのですが」
「そうね」

電気がつかないということは暖房も使えない。冬も間近のオフィスはしんと冷えていた。幸いスカートやジャケットは濡れていないけれど、充分冷え込む。
私は自分のデスクにつき、カイロを腿の上に乗せひざ掛けを広げた。すると、千石くんが山根さんと持田さんの席からもそれぞれのひざ掛けを持ってきて私に被せた。

「山根さんと持田さんには新しいものを俺からプレゼントしますので。今日のところは使わせてもらいましょう」
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