クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「ふたりとも後で事情を話せば、わかってくれるわよ。新しいものなんて大袈裟」

雨の音は強いままだ。車の往来もあるはずなのに、その音がかき消されるくらい。雷がいってしまったのはホッとしたけれど、停電に電車の運転見合わせは困った事態だ。
千石くんとふたりきりで夜のオフィスにいるのもまずいような気がする。だって、下手したらこのまま朝までだ。

「早く電車が動くといいね」
「俺はずっとこのままでもいいですよ。好きな人とふたりきりだ」

見れば、隣に座って千石くんは微笑んでいる。先ほどの抱擁も作用したのかもしれないけれど、緊張感はわずかに和らいでいた。私は苦笑いして軽く言う。

「何度も断ってるのに」
「懲りないでしょう?」

本当に懲りない。これほど拒否する相手をめげずに追いかけるなんて、頭の中、どうなっているのかしら。
すると、私の心の疑問にこたえるように千石くんが言う。

「俺にもどうしてかわかりませんが、あなたにこれほどあしらわれても諦める気になれないんです。あなたが俺に振り向く未来があるように思える。だから俺は何年だって待ちますよ」
「自信家ね」
「根がロマンティストなんでしょうね」
「錯覚だとは思わないの?」

恋愛なんて、多かれ少なかれ錯覚だ。相手を自分の都合のいいように見て、優良物件だとほしくなるだけだ。
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