クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
そして、私のカバンの中にはずっと入れっぱなしの箱がひとつ。
これは……誤解なく言うならただのお礼だ。そう、千石くんへの。

雷で震え上がってしまった私を落ち着かせてくれた彼へ、きちんとお礼がしたかった。その前も、仕事のミスで周りが見えなくなりそうな私をたしなめてくれてし。強引でアプローチ激しいけど、彼に助けられたことが続けば、ちょっとお礼くらいしなきゃって気分にもなる。
何を渡すか悩んだし、デパートを2時間くらいうろついちゃったけど、本当にたいしたことない粗品だからいいよね!!
変な意味じゃないんだから、さっさと渡しちゃえばいいのに。渡せないまま数日が経っていた。はあ、私の意気地無し。

「真純さん」

この日、定時帰宅でエントランスを出ると、追いかけてきた千石くんに声をかけられた。

「なに?」
「お帰りのところすみません。さっき、野口課長と話していた件で」

やっぱりなぁと私は振り向く。
先程、オフィスでのこと。私は野口課長から回された仕事を断った。
内容は千石くんとふたりで福岡の就活生向けのコンベンションに行ってきてくれってことだった。

「あれは人事課がやるべき仕事よ。井戸川課長、私が昔人事にいたのを知ってて、手が回らない仕事を回してくるの。野口課長が断るの苦手だから」

井戸川課長は私が総務二課に異動してから課長になったので、直接お世話になっていたわけじゃない。でも、このお調子者の課長は、同じオフィスにいて人事経験者の私に仕事を手伝わせようとすることがちょくちょくあるのだ。
こっちも忙しいのに、手伝えないっつうの!
< 112 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop