クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「井戸川課長には私が直接言うからいいわ」
「あなたが断ったのは、俺と出張だからでしょう?」
ずばり言われて、一瞬否定できない。
確かに私は、千石くんと出張という状況を避けたかった。場所は福岡だ。飛行機を使えば日帰りで行ける。しかし、丸一日千石くんとべったり一緒で、周囲の目もないという状況は可能なら避けたい。
ずるい私はニコッと微笑み、気持ちを整理して嘘をつく。
「そういうのは関係ないわ」
仕事にプライベートを持ち込みたくないといいつつ、かなり影響されている自分が恥ずかしい。最近、千石くんが近くにいると落ち着かない気分になるんだもの。
拒否は毎度してるし、今後も恋愛はない。でも、彼個人の優しさや思いやりには気づいてしまった。冷静に私を見ながら内側に燃えてる熱い気持ちがある。そうなると、あの日の東京タワーを、私は切り離せなくなる。
雨の日に抱きしめられたせいかもしれない。弱っているところを支えられた記憶がだぶる。
千石くんのことを決定的に拒否できなくなる日が来るんじゃないか。そんなことを考えると怖かった。
「そうですか。それならいいんですが」
短く息をつき、千石くんは言った。
「もし、俺が邪魔なようでしたら『千石は外す』等、野口課長に言っていただいて構いませんよ」
思わぬ言葉に驚いた。千石くんは卑屈で言っているわけではない。真面目に言っている様子だ。
「真純さんの仕事の邪魔になるなら、外してください。やりづらいと感じるなら。俺は一向に構いません。いずれ、あなたの下から外されるかもしれませんが、それでもいいです」
「待って、そんなこと思ってない……けど」
私の方が焦ってしまい、背の高い千石くんを恐る恐る見上げる。
「千石くんは、私の下から外れたいの?」
なんだか縋るような態度になってしまった。まずいまずい。
こういう感じで話したかったんじゃなくて!!
純粋に上司として不適格な部分があったのかと!