クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「よろしいんですか?おふたりのお邪魔をするのは気が引けます」

千石くんが人好きのするジェントルマンの笑顔になる。営業スマイルに見事に引っかかる野々花。

「もちろん!真純の部下なんだから、お姉さん奢っちゃう」

おいおい、お姉さん頼むよっ!
ここで絶対ダメって怒ることはできるけど、千石くんのことは傷つけちゃうし、野々花には部下と不和を疑われるし……。そうだ、飲んだ帰りにお礼の品を渡せばいい!そう思おう!
野々花と三人なら千石くんも無理やりキスとかしてこないだろう。うんうん。

「今日いこうと思ってたお店、こっちなんですよ。イタリアンなんだけど、お好き?」
「ええ、好きです。すごくお腹が空いていたので嬉しいなぁ」
「がっつり食べましょ!真純もね、こう見えてかなり食べるんだから」
「確かに、細い割にはよく食べますよね。見ていて気持ちのいいくらい」
「お、千石くん、上司をよく見てるね〜。出世するぞ〜」

ふたりの会話が初対面ならではで、私からしたら突っ込みどころ満載なのよ。千石くん、日頃から私と親しく食事してる感を出さないで!っていうか、ホテルディナーのときは出てくる量が多すぎて食べざるを得なかったの!

野々花、千石くんに私の色々喋らないでね!あと、この人うちの会社の後継だから!出世どころの話じゃないから!

地下通路手前のビルのひとつに決めていたお店があるんだけど、エレベーターに向かう直前で野々花の携帯が鳴り響いた。

「ごめん、ちょっと失礼ね」

はあいと呑気な声で出た野々花の様子がすぐに変わった。ええ、はい、という硬い声音は、相手が親しい人じゃないことは感じさせた。そして、切迫感も。
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