クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「真純、どうしよう」

電話を切ってすぐに真っ青な顔の野々花がすがりついてきた。

「歩くん、倒れたって」
「え?」

『歩くん』は野々花のご主人だ。外食チェーン店の社員で、今日は新店のオープンに合わせて地方に出張だったはず。だから、野々花が暇だって私をごはんに誘ったわけで。

「大丈夫なの!?」
「わかんない。今、後輩の人から電話があって。急にお腹が痛いって倒れちゃったらしいの。救急車を降りたところで電話くれたみたい。今、処置中って」

野々花は青い顔をし、細い声で言う。口元に持ってきた手がぶるぶる震えている。
私はその手を反射的にぎゅっと握った。

「場所は?出張中でしょう?」
「新潟の長野寄りのところで……山間で、病院の住所とかは後輩の人がショートメールで送ってくれた。今からなら新幹線が間に合うから、私行かなきゃ……」

うろたえている野々花をひとりで行かせたくない。でも、私がついて行っていいものか。深刻な事態だったら、外部の人間がついて行くのはまずいんじゃなかろうか。

「待ってください」

口を挟んできたのは千石くんだ。野々花に断り、携帯の画面で住所を確認している。

「学生の頃、旅行でこのあたりに行ったことがあります。確か、新幹線を降りて、車で一時間以上かかる地域です。バスは本数が少なく終電も早いので、今からでは間に合わない」
「そうだって言ってた。旦那、後輩の運転で社用車使って行ってるもん」
「野々花さん、よろしければ俺の車でお送りします」

え、と聞き返したのは私と野々花が同時。
千石くんの声は冷静で、勢いで言っているわけじゃないのがわかる。
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