クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
千石くんはひとり住まいだそうだが、車は実家にあるとのこと。世田谷の実家に車を取りに行っている間に、私たちは野々花のマンションで荷物や保険証をまとめた。旦那さんの容態はわからず、続報を待ちながらの支度だ。しっかりものの野々花が動揺して震えているのを初めて見た。

「野々花、千石くんもう少しで着くよ」
「うん」
「途中で飲めるように、コンビニでコーヒー買ってきたから」
「うん」

返事は上の空だ。おにぎりやサンドイッチも買ったけれど、野々花の心境では喉を通らないだろう。当たり前だ。持病もない健康な旦那さんが急に倒れたんだもの。

「真純、ありがとう。千石くんも……。落ち着いたら御礼するから」
「そんなの今は考えなくていいよ」

旦那さんも心配だけど動揺している野々花も心配。早く旦那さんの元へ送り届けてあげたい。

千石くんはすぐに車で到着し、私たち三人は首都高へ。関越自動車道に入ったところで、野々花の携帯に電話がきた。旦那さんの部下からの連絡だ。
私と千石くんが固唾を飲んで見守る中、慌てて出た野々花が頓狂な声をあげた。

「歩くん!大丈夫なの!?」

なんと電話をかけてきたのは旦那さんご本人のようだ。
しばし旦那さんと会話する野々花。その声がどんどん緩んでいくのを耳にし、私の張り詰めた気持ちも徐々に落ち着いてきた。
通話を切った野々花が、隣の私と運転席の千石くんに声を張り上げた。

「お騒がせしました!夫と連絡がつきました!」
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