クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした




その日の総務部のオフィスは若干の緊張が奔っていた。
これからやってくるのは富士ヶ嶺カンパニーの御曹司だ。始業時刻が過ぎ、各々デスクやその周辺で定例の仕事をこなしながらも、いつその時がくるかとソワソワしている。
私も、それなりに緊張している。どんな人だろう。持田さんの言うような面倒くさい系男子じゃないといいな。意識高い系もやだな。

すると、先んだってオフィスに入ってきたのは秘書課の面々、いつもは隣の秘書室に詰めている。
そして5階からシステム管理課のメンバーも現れた。総務部総出のお迎え体制らしい。御曹司とはいえ中途入社の社員ひとりに大仰じゃない?

やがてドアが開き、人事の井戸川課長と総務二課の野口課長に伴われて、背の高い男性が入ってきた。

185センチほどありそうな長身、短い髪の毛は後ろに撫で付けてある。固そうな印象だ。一目で高級ブランドとわかる細身のスーツを嫌味なく着こなし、スラリと脚が長いのは一目瞭然。

そして、私はその体躯を観察しながら心の奥底から湧き上がる何かを感じていた。
なんだろう、この感覚。
全身を観察していた視線が彼の顔に移動する。瞬間、心臓が止まりそうになった。

あの青年だ。
東京タワーで会った彼だ。
どん底の私を救ってくれた彼だ!

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