クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
千石くんが出社したのは翌々日のことだった。
どうして仕事始めから二日も休んだのか、私にはわからない。野口課長にそれとなく聞いてみたけれど、社長のご意向みたいという曖昧な返事だった。
遅まきに部内中を新年の挨拶をしてまわる千石くん。社内には彼と横手さんの婚約の噂が流れている。総務部長以外誰も面と向かって聞こうとはしないけれど、周知の事実となっている。
「真純さん、あけましておめでとうございます」
「おめでとうございます」
千石くんが頭をさげるので、私もお辞儀する。型通りの挨拶を終えると、いつもの人好きのする笑顔が私に向けられていた。年末のデートなんかなかったみたい。
想像していたけれど、まったく動揺もしない千石くんにかすかに苛立ちを覚えた。苛立つ資格は、私にはない。
千石くん本人は噂を知っているのだろうか。知っていて、自分から何も言わないのだろうか。否定して回らないなら、やはり婚約の話は進んでいるのだろうか。
埒もないことを延々と考える。ああ、嫌だ。苦しい。彼とつけた区切りを、私だけが受け入れられず悶々としている。こんなことはよくない。
「真純さん、午後に営業部と打ち合わせがあるんですが」
千石くんがいつもの調子で仕事のことを話しだす。
「うん、わかった。私も行くよ」
「いえ、俺だけで事が足りそうですので、真純さんは大丈夫です」
ああ、そう。そうやって、仕事の面でも私と距離を置こうって思ってるのね。
……駄目だ。仕事のプライベートをごちゃごちゃにするのは絶対にダメ。それなのに、頭がどんどん勝手な方向に行ってしまう。
「真純さん、顔色があまりよくないです」
心配そうな顔でこちらを見ないで。優しくしようとしないで。
勘違いしそうになるから。
「大丈夫よ。少し寝不足なだけ」
突き放すような口調になってしまった。でもこれでいい。
目を伏せ、私は自分の仕事に戻った。
どうして仕事始めから二日も休んだのか、私にはわからない。野口課長にそれとなく聞いてみたけれど、社長のご意向みたいという曖昧な返事だった。
遅まきに部内中を新年の挨拶をしてまわる千石くん。社内には彼と横手さんの婚約の噂が流れている。総務部長以外誰も面と向かって聞こうとはしないけれど、周知の事実となっている。
「真純さん、あけましておめでとうございます」
「おめでとうございます」
千石くんが頭をさげるので、私もお辞儀する。型通りの挨拶を終えると、いつもの人好きのする笑顔が私に向けられていた。年末のデートなんかなかったみたい。
想像していたけれど、まったく動揺もしない千石くんにかすかに苛立ちを覚えた。苛立つ資格は、私にはない。
千石くん本人は噂を知っているのだろうか。知っていて、自分から何も言わないのだろうか。否定して回らないなら、やはり婚約の話は進んでいるのだろうか。
埒もないことを延々と考える。ああ、嫌だ。苦しい。彼とつけた区切りを、私だけが受け入れられず悶々としている。こんなことはよくない。
「真純さん、午後に営業部と打ち合わせがあるんですが」
千石くんがいつもの調子で仕事のことを話しだす。
「うん、わかった。私も行くよ」
「いえ、俺だけで事が足りそうですので、真純さんは大丈夫です」
ああ、そう。そうやって、仕事の面でも私と距離を置こうって思ってるのね。
……駄目だ。仕事のプライベートをごちゃごちゃにするのは絶対にダメ。それなのに、頭がどんどん勝手な方向に行ってしまう。
「真純さん、顔色があまりよくないです」
心配そうな顔でこちらを見ないで。優しくしようとしないで。
勘違いしそうになるから。
「大丈夫よ。少し寝不足なだけ」
突き放すような口調になってしまった。でもこれでいい。
目を伏せ、私は自分の仕事に戻った。