クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
東京タワーはすでに夕闇に沈んでいた。冬至からまだひと月も経っていないから、夜は長いままだ。ぴゅうぴゅうと冷たい風が吹きすさび、マフラーを職場に忘れてきたことに今更気づいた。そんなことは構っていられない。
入場券売り場は空いていてチケットはすぐに購入できた。冬休みの後の平日の夜だし、誰もがまっすぐ家に帰りたいほど寒い夜だ。こんなものだろう。
まっすぐデッキに登ると、まばらな観光客の中に千石くんがいた。リニューアル工事がはいっているせいで、一部閉鎖区間があるから、彼の背中はすぐに見つけることができた。
「千石くん」
思い切って声をかけると、彼はしなやかな体躯を翻し、こちらを見た。
「真純さん」
その唇が薄く開く。瞳は驚いたように見開かれ、次に優しく細められた。
「どうしても」
歩み寄り、私は背の高い彼を見上げる。
「どうしても、千石くんの口から聞かないと納得できない。会社を辞めることも……他にも……」
順風満帆だったはずだ。富士ヶ嶺の後継者として、たった半年で彼がどれだけのものを積み上げてきたか。
こんなに急に会社を去る理由があるなら知りたい。
「真純さんに振られたから」
そう言って千石くんは微笑んだ。
「なんて、嘘です。本当はスペインに残してきた会社とその仲間たちからSOSがあったんです」
「え……」
スペインには千石くんが友人と起業した会社がある。若いアーティストを発掘してプロデュースしていく会社だと聞いた。そこが軌道に乗ったから、千石くんは戻ってきたんじゃなかったの?
入場券売り場は空いていてチケットはすぐに購入できた。冬休みの後の平日の夜だし、誰もがまっすぐ家に帰りたいほど寒い夜だ。こんなものだろう。
まっすぐデッキに登ると、まばらな観光客の中に千石くんがいた。リニューアル工事がはいっているせいで、一部閉鎖区間があるから、彼の背中はすぐに見つけることができた。
「千石くん」
思い切って声をかけると、彼はしなやかな体躯を翻し、こちらを見た。
「真純さん」
その唇が薄く開く。瞳は驚いたように見開かれ、次に優しく細められた。
「どうしても」
歩み寄り、私は背の高い彼を見上げる。
「どうしても、千石くんの口から聞かないと納得できない。会社を辞めることも……他にも……」
順風満帆だったはずだ。富士ヶ嶺の後継者として、たった半年で彼がどれだけのものを積み上げてきたか。
こんなに急に会社を去る理由があるなら知りたい。
「真純さんに振られたから」
そう言って千石くんは微笑んだ。
「なんて、嘘です。本当はスペインに残してきた会社とその仲間たちからSOSがあったんです」
「え……」
スペインには千石くんが友人と起業した会社がある。若いアーティストを発掘してプロデュースしていく会社だと聞いた。そこが軌道に乗ったから、千石くんは戻ってきたんじゃなかったの?