クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「諦めるってそういうことなんだね」
「ええ、全然諦められてないんですけどね。困ってます」

千石くんは肩をすくめておどけてみせる。
私は千石くんにもう一歩近づいた。勇気を出して彼の右手に触れる。それから両手を取り、包み込むように握った。

「千石くん、私、ずっとあなたと付き合うのは無理って言ってきた。年下で部下で、住む世界の違うあなたと恋人になるなんて。だから、逆にあなたを好きになる可能性はどこにあるかを考えたの」

彼の透明な瞳に私の顔が映る。必死の表情が映っていて恥ずかしい。でも、ここで必死にならなきゃいつなるのだろう。
三十年間生きてきて、一世一代の思いを伝えるのは今なのだ。

「あなたが御曹司でお金持ちなんてことは、好きの要素には入ってない。そんなのどうでもいい。私が好きになるとしたら……」

言葉に詰まりそうになる。ぐっと背筋を伸ばし、千石くんを見つめた。

「私が好きになったのは、強引で勝手で、紳士的なのに自信満々で、でもとびきり優しくて思いやりのあるあなたの性格よ」

次の瞬間、千石くんが私を抱き寄せた。
苦しいくらいの抱擁に、私は戸惑い一瞬身体が強張った。やがておそるおそる彼の背に腕を回した。

「俺が好きになったのは、真面目で堅くてお人好しで、クールな大人ぶりたいのに案外子どもなあなたです」
「うるさいなぁ」

千石くんの声がダイレクトに身体に響く。心地いい。
< 166 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop