クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「待たせますよ。何年かかるかわからないけれど、俺の納得できる将来を引っさげて、あなたを迎えにきます」
「バカねぇ。30女を待たせるなんて正気じゃない。他に条件のいい男の人がいたら、すぐにそっちに行っちゃうわよ」

誓いの言葉をわざと茶化すと頰に触れる彼の手。見上げれば千石くんの愛おしそうな視線とぶつかった。

「そんな気ないくせに。俺のこと、好きなんでしょう?」

殺し文句には諸手を挙げて降参するしかない。ここまでずっと言えなかった。言わなかった。だけど、もう私も向き合いたい。

「大好きよ、バカ!」

人目を気にしていないわけじゃない。だから、あっという間に終わらせるつもり。
この瞬間、大事な告白をここでできてよかった。私たちはぎゅっと抱き合い、それから名残惜しく身体と身体に距離を作った。




東京タワーを降り、手を繋いで歩く。びゅうびゅう吹きすさぶ風が今は心地いい。

「私がここに来なかったら言わないでスペインに行くつもりだったの?」

横を見あげれば、そこにはずっと隣にいてくれた男性が恋人の瞳で私を見つめている。

「ええ。向こうからプロポーズの手紙を送るつもりでした」
「まだるっこしいこと考えるなぁ」
「真純さん、古風なところあるから、手紙っていうのもグッとくるかなって」

なんだろう、その攻略法。古風ってあたりがおばさんに通じて、ちょっと心外なんだけど。
私は空を仰いだ。東京タワーと細い月。じんわりと伝わってくる千石くんの手のぬくもり。

「急がないから、千石くんの……孝太郎の思うようにがんばって」

千石くんがうめき声をあげるので、視線を彼に戻すと彼は耳まで真っ赤になっていた。不意打ちで名前を呼んだのが響いたらしい。

「ああ、もう。朝まで独占してもいいですか?」

真っ赤な顔を伏せる彼に、私はささやくように答えた。

「うん、孝太郎のものになったから、好きにしていいよ」

東京タワーの下、私たちは並んで歩いた。どこまでも行けそうな幸福な気分だった。





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